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015.担当者




 イオライトさまと出会ってから、数日が経ちました。

 わたくしはひとりで海岸に来ていました。


 今日もパライバは快晴。

 朝から強い陽射しが降り注いでいます。

 海は、空に負けないくらいの強い青色。穏やかに凪いでいます。


 終わりのない青さと静かな波音に心が洗われるようです。

 打ち寄せる波に向かっていくと、くるぶしに当たって砕けました。


 海というのは、ふしぎな場所です。

 遠くから見れば青い海。

 波の表面を見れば透き通っていて、海底の砂や貝などの生き物が見えます。


 何回かトリンさんたちから泳ぎに誘われたことはありますが、まだ、全身を海に浸すことに抵抗があって泳いだことはありません。

 それでも足くらいなら海水に浸かれるようになりました。

 いつかは海のなかに広がる景色をこの目で見てみたいものです。


 さて、ワンピースの裾をまくって、魔石拾いに勤しむことにしましょう。


 海に流れ着く魔石というのは青い色だけではありません。

 今日は珍しく赤系の魔石が流れ着いています。

 

 身を屈めて屑魔石を拾い上げました。

 そのまま親指と人差し指で持ち、陽に透かします。


「……きれいです……」


 海水で軽くすすぎながら、赤い、火の魔石を中心に拾っていきます。


 午後からは魔石商会へ足を運ぶことにしています。

 商会長から直々に、新しい担当を挨拶させると連絡が入ったのです。

 ちょうど他の都市から転勤してきた方だということでした。


 イオライトさまも魔石商会へ行くと宣言されましたが、朝から出かけていました。

 

 正直なところ、騒動以来初めての魔石商会なので緊張もしています。

 目立つことは避けられないでしょう。


 どんどんわたくしの望む方向とは逆へ進んでいるような気がしなくもありません。

 甲高い鳴き声に空を見上げると、数羽の白い鳥が大きく旋回しているところでした。







 魔石商会が見える距離まで歩いて行くと、入り口に目立つ存在を見つけました。

 慌てて駆け寄ります。


「イオライトさま。お待たせいたしました」

「問題ない。先ほど着いたところだ」


 今日のイオライトさまは、白のシャツ。麻のように見えます。ズボンはオリーブ色。幅の太いベルトには装飾が施されていてまるで美術品のようです。

 それにしても露出度が少なくて安心しました。


「新しい担当がどのような者か見極めなければならない」


 戦闘態勢に聞こえなくもない発言です。先に諫めておくべきでしょうか。


「おやめください、イオライトさま。きっといい方ですから」

「お待ちしておりました。イオライト様、アネット様」


 すると入口で迎えてくださったのは、ローライト商会長でした。

 灰色と金色の混じった髪の毛。瞳は薄い青と緑の混じったような淡い色。


「こんにちは、ローライト商会長さま。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。では、ご案内いたします」


 気がつくとすべての商会員がわたくしたちに向かって頭を下げていました。


「あの、皆さん。楽になさってくださいね……?」


 慌てながらも商会長の後に続き、案内されたのは会長室でした。

 商談室よりも広く、調度品も揃っています。少し、実家の雰囲気に近いものがありました。


 座り心地のいい革のソファーに案内され、紅茶とベリーのタルトが運ばれてきます。

 向かいに腰かけたローライト商会長が、自らの髭を撫でました。


「今から紹介しますのは、とても優秀な商会員です。ゆくゆくはどこかの商会長となるでしょう男です。アネット様にも真摯に対応させていただきます」

「宜しく頼む」

「イ、イオライトさま」


 そんな方に担当してもらうだなんて、かえって困ります。

 わたくしは宝飾品を扱っているのではないのですから。


 しかし懇願する間もなく、扉がノックされました。


「入りなさい」

「失礼します」


 立っていたのは、スーツ姿の細身の男性でした。

 ビーさんとは正反対の雰囲気というのが第一印象です。


「メラルドと申します。この度、アネット様の担当となります。どうぞお見知りおきを」


 顔を上げたメラルドさんは、碧色の瞳。

 金色の髪はローライト商会長のように後ろに撫でつけています。

 理知的な顔つきで、ローライト商会長の言葉にも頷けます。


 立ち上がってわたくしも丁寧にお辞儀をします。


「アネットと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 顔を上げて視線が合います。

 整った顔つきのメラルドさんはわたくしのことを凝視してきました。


 近づいてくるとわたくしの両手を恭しく取りました。


「なんと美しい御方……! この出逢いに心から感謝します」

「!」


 そして。

 わたくしの手の甲に口づけようとしたとき、隣からイオライトさまがメラルドさんの手首をつかみました。

 表情はにこやかで笑みも浮かべていますが、瞳はきつくメラルドさんを睨んでいました。


「アネットは私の将来の妻だ。気安く触れてもらっては困るな?」

 

 

 

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