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星に願いを  作者: 深月 陽真
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第38話 羊は永遠に叶わぬ夢を見る⑤

 民間企業に入社した未来はあまりに国家公務員時代との文化の違いに驚いた。


 まず、紙媒体を利用した仕事が少なく、ほとんどPCで仕事をしていた。


 役職者でも、自分宛にかかってきた電話は取るし、取り次いでも怒鳴られることはなかった。


 仕事も丁寧に教えてもらえた。周囲も仕事に真剣に取り組んでいた。困っていたら助けてくれた。


 未来は民間企業に入社して特段の不満はなかった。


 しかし、やはり国家公務員でしかできない仕事がある。安定しているなんて理由で未来は国家公務員を目指したわけではなかった。やりたいことがあったから国家公務員になったのだ。


 民間企業での働き方には不満はない。それでも、国家公務員として働けなくなったことに悔しさがあった。


 国家公務員を辞めてから数年後、未来は男の影から少しずつ解放されていた。それでも、男と同じ名前を見たり聞いたりするのは気分が悪く、男性の大声に敏感なところはあった。


 しかし、他の人と同じように仕事もできていたし、趣味も楽しめるようになっていた。言われなければ未来がうつ病で未だに通院と薬物治療をしているなどわからないだろう。


 時間が経つにつれ、恐怖心は減りつつあったが次第にそれは後悔と怒りの念に変わりつつあった。


 何故、自分は辞めなければいけなかったのか。


 あれはパワハラで周囲も怯えていた。男は何人も辞めさせてきたと言っていた。また、試用期間とはいえ懲戒処分にすると脅しをかけるのはおかしくないか。


 未来は段々と悔しくなってきた。税金が給与から引かれるたびに、男に支払われているかと思うと悲しくなった。


 未だに男によって苦しんでいる人がいるかもしれない。内部にいたら告発ができないのかもしれない。それに自分以外にも辞めた人はいるという。


 ならば、辞めてしまった自分なら恐れず告発ができるかもしれない。


 国家公務員を辞めて数年後、未来はK省のハラスメント窓口に男を告発した。


 しかし、結果はパワハラはなかったと言われた。


 未来は悔しかった。だから、言ってしまった。世の中、死ないと認めてくれないんですかと。


 ハラスメント窓口から以下のメールが届いた。


「あなたは物事を否定的に捉えすぎています。今の精神状態を両親や主治医はご存知ですか。このことを両親や主治医にお知らせします」


 未来は頭がおかしくなりそうだった。悔しかった。悲しかった。辛かった。死にたくなった。自分の受けたあの苦しさは偽物で、全部自分の夢だったのかと。


 自分は考え方を変えて懸命に生きてきた。物事を否定的に捉えてなんかいない。前を向いて生きようと努力してきた。だからこそ、認めて欲しかった。間違いを正して欲しかったのだ。


 過去に戻りたい。そしたら、男のパワハラをちゃんと人事に伝える。いや、男の言動など無視できるはずだ。


「違う。戻っちゃダメだ。僕にはこの数年で得られたものがたくさんあるじゃないか」


 パワハラを経験し、通院とリワークプログラムの参加で、思考を変えることを学び、また世代も職業も違う友人がたくさんできた。民間企業に入社し、公務員との違いも知った。


 この過去があったから今の自分がある。だから、今を受け入れなければいけない。過去には戻っちゃいけない。


「それでも、やっぱり真実が知りたい。あの人の行いがパワハラならちゃんと認めて欲しい。そして、僕はこの経験を活かして、今度こそより良い国にするために国家公務員になるんだ」


 未来は牡羊座の星霊に願った。


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