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星に願いを  作者: 深月 陽真
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第37話 羊は永遠に叶わぬ夢を見る④

 国家公務員法59条「一般職に属するすべての官職に対する職員の採用又は昇任は、すべて条件附のものとし、その職員が、その官職において六月を下らない期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする」


「今月までに自主退職しないと懲戒処分にするから、今日、退職届出してもらえますか」


 未来は人事からそう告げられた。精神疾患者を雇うことはできない。試用期間中に休職はできない。だから、法律に従い、試用期間ということで懲戒処分にすると。


「家族に相談しても良いけど、退職届を出すのが遅くなれば、君に不利になるし、懲戒処分になんかなったら君の今後の人生、大変な目に遭うよ」


 半ば脅しともとれる人事の発言に未来は頷くことしかできなかった。


 辞めたくない。あんなに頑張って受験勉強をして、ようやく入ったのに。国のため、国民のため、この国をより良い国にしたいと願い、目指した国家公務員への道。


 それをどうして辞めなければいけないのか。


 未来は泣きながら、手を震わせながら退職届を書いた。


 その時の未来はまだ精神が安定しておらず、男から逃げたいという気持ちの方が強かった。


 だからこそ、精神が不安定な状態での退職は絶対避けるべきであると主治医から言われていた。精神が不安定な状態では正しい選択ができない。しっかり休み、正しい選択ができる状態になってから退職は考えるべきだと。


 しかし、未来には選べる道が用意されていなかった。


 どうして?最初に休職はできると言われたのに。試用期間の話もされたことなどなかった。

  

 法律を知らない自分が悪いのか。自分が弱いせいでこんなことになったのか。


「そんな人いるなんて聞いたこともない。嘘を吐くんじゃありません」

 

 振り返れば未来は男の報復が怖く、人事に男の話をちゃんとできていなかった。それに加えて、未来は省内で相談に乗ってくれていた保健師に男の話をしたら信じてくれなかったのだ。未来は誰も信用できなくなっていたのだ。


「病気の人間を雇ってくれる場所なんてどこにもないですよ」


 復職支援として紹介された精神保健福祉士からはそう言われた。


 未来はたった半年で国家公務員を自主退職した。


 家族にも友人にも相談できないまま、夢と希望を抱いて入った国家公務員を辞めたのだった。


 後に、未来は半年以上かけて通院とリワークプログラムに参加し、とある民間企業へ第二新卒として入社した。


 しかし、就職は困難を極めた。半年で国家公務員を辞めた経歴は厳しく見られ、なかなか内定が出なかった。


 ある採用アドバイザーからパワハラで辞めたと正直に話したらどうかと言われた。すると、複数から内定が出たのだった。もちろん、パワハラの話をしたら笑われたり嫌な目をされたりすることもあった。しかし、本当の自分を受け入れてくれた企業に未来は感謝した。

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