第36話 羊は永遠に叶わぬ夢を見る③
悪夢はまだ続いた。
試用期間中であった未来に、主治医は休職ができるか確認するよう言った。休職が取れない場合は別の方法を取るからと。
休職は取れることを確認した。ただ、まずは病気休暇から取得するよう指示があった。
一定期間、家で過ごした。起き上がるのさえ困難な日々が続き、食欲も低下していた。それでも、男から離れられたことで多少心は落ち着きを取り戻していた。
しかし、それでも男の影に怯えながら生活をせざるを得なかった。未来は他人の大声に敏感になった。TVドラマなどで「おまえ」という台詞が出るだけで動悸がした。
体重も減り、趣味も楽しめなくなった。生きているのが辛く、何度も死にたいと思うようになった。
通院を続けるうち、主治医から復職に向けたプログラムを受けてみてはどうかと言われた。
うつ病は再発のしやすい病気だった。少し休むことですぐに職場に復職すると、また休職をしてしまうケースがある。それを防ぐために、リワークプログラムという臨床心理士や理学療法士など様々な人の支援の元、万全な復職に向けた治療方法があった。
職場からも復職に向け、精神保健福祉士を紹介され、リワークプログラムに参加することにした。
そこで未来は多くの発見と仲間に出会ったのだった。
年齢も性別も職業も違う様々な人々がそれぞれの理由で病気となり仕事を休み、復職や転職に向けて治療に挑んでいたのだ。
治療は様々な視点で行われた。初めは週2回から軽い治療から始めた。
まずはヨガなどの運動から始まり、徐々に病気になった理由を考えたりする思考治療へと移って行った。
参加者との交流の中で様々な人が様々な思いで通院していることを未来は知った。
未来は変わっていった。もしかしたら男の言動は「そういう人だから仕方ない」と括ることもできたかもしれない。怖い怖いと思っていたが、機嫌が良ければ何もない人だったし、挨拶も返してくれたのだと。
未来は復職に向けて頑張ろうとしていた。
9月に入った時だった。未来は人事から呼び出され、衝撃の事実を告げられた。




