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星に願いを  作者: 深月 陽真
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第35話 羊は永遠に叶わぬ夢を見る②

 男がいないと空気が穏やかになる。未来の心も穏やかだった。


 職場環境は劣悪で足の踏み場もないぐらい資料が置かれ、エアコンも効かない。作業場所がないからと暗い廊下で一日中作業せざるを得ない日もあった。


 保留の使えない電話、FAXの使用、Excel入力の勤怠、大量の紙の資料、ハンコなど、古いしきたりや文化が根付いていた。


 また、国民からのクレーム対応、月80時間以上に及ぶ残業も続いた。


 それでも、未来は国のためと大学生活を犠牲にしてまで勉強をし、家族の多大な支援もあって、努力して入った国家公務員を辞めたいなどと思っていなかった。そして何より仕事に誇りを持っていた。


 しかし、未来の心は少しずつ壊れていった。


 男に恐怖心を抱くようになったのだ。男がいるだけで苦しく、辛い時間を過ごすようになった。


 ある日、課内の飲み会で男は同じ職場の非常勤職員の悪口を話し出した。


「あいつもすぐに辞めるさ。なんたって俺は嫌いな奴はみんな辞めさせてきたからな」


 未来は怖くなった。


 たしかに未来の職場は人の出入りが多く、未来の前任者も精神を病み、職場を移ったと聞く。その職員に対しても男は言った。


「この課を出て行ってから元気になりやがって腹が立つんだよ」


 その職員が男によって精神を病むほど追い込まれたのか、また何人も辞めさせられたのかは今では闇の中ではある。


 未来は夜、眠れない日が続くようになった。寝ても夢で男に怒鳴られる日が何度もあった。職場で急に涙が止まらなくなることもあった。


 未来は段々と出社することが辛くなってきた。電車に乗っても気分が悪くなり、やっとの思いで出社した。


 そしてある日、未来は男に電話を取り次いだ際、大きな声で怒鳴られた。


「そんなもんおまえがやれよ!ホント使えねえな」


 その瞬間、未来の張り詰めていた糸が切れてしまった。

 

 次の日、未来は電車に乗るが途中で気分が悪くなり会社を休んだ。


 うつ病。


 未来は精神科でそう診断されたのだった。

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