第34話 羊は永遠に叶わぬ夢を見る①
青年、群馬未来は大学時代、国の制度や法律に違和感を覚えた。だから、国を変えるために国家公務員になることを決めた。
大学3年生の春から1年間予備校に通い必死に勉強した。周囲の民間企業への就職者たちが次々に内定をもらう中、懸命に受験を続けた。
そして、試験に合格した。なんとかK省から内定をもらうことができたのだった。
この国をより良い国にしたい。
未来はそう誓ってK省に入省した。
しかし、未来に待ち受けたのは残酷な仕打ちだった。
まず、未来は希望する局(民間企業でいう部のような括り)へ配属されなかった。一般職の未来では一度その局へ配属されたら、その中の課内でしか異動は難しいとされていた。
未来は雇用や女性支援への政策に関わりたいためにK省へ入省した。学生時代もその分野の勉強をしていた。しかし、実際配属になったのは全く違う分野の部署だったのだ。
それでも、未来はK省に入れたのだから、いつか希望する局へ異動できる日を信じて配属された場所で一生懸命頑張ろうと心に決めた。
そんな彼の思いはある男の手によって無惨にも打ち砕かれた。
男は30代後半で係長の次にあたる役職者だった。男は機嫌の良し悪しが激しく、機嫌が悪いとすぐに怒鳴ったり、話しかけても無視をするなどの行為を繰り返していた。
周囲も男にひどく気を遣っており、怖がっていたようだったと、後に未来は思った。
その職場では役職者は絶対に電話が鳴っても取らない、それがたとえ自分の内線宛であってもだった。
新人の未来は電話対応をしており、ある日男宛に電話がかってきた。未来は男に電話を取り次ごうとしたところ、「おまえが対応しろ!」と怒鳴られた。
またある日も男宛に外部から電話がかかってきたので、取り次いだら「こっちは忙しいんだから、話しかけるな!折り返させろ!」と怒鳴られた。その職場の電話はなぜか保留機能が使えず、電話の相手方もその声に萎縮してしまった。
ある時は男のミスを未来のせいにされたこともあった。ゴミ箱を蹴飛ばし、部屋中に聞こえる大声で怒鳴られたこともあった。
もちろん、未来自身のミスもあった。しかし、大半は男の機嫌の悪さが引き起こした理不尽な怒りだった。
しかし、その時の未来にとってそれはすべて自分の能力の無さであり、自分が悪いのだと思い込んでいた。
数年後、それはパワハラであった可能性があると指摘されるまでは。