第30話 羊は永遠の眠りに付く②
怒り狂った男は首から血を流し倒れた青年を何度も踏みつけた。
その異常な様子に蓮は初め何もできずにいた。
「死にたくない」
青年が涙を流しながら最後に言ったのはその言葉だった。
「蓮?」
蓮は優仁の声でまた夢を見ていたことに気付く。優仁の家に来て、寝ていた優仁の側で自分も寝てしまったのだ。
「優仁!おまえ、どこも怪我してないか?体は大丈夫か?」
「たぶん、大丈夫。それよりも蓮は?手は大丈夫なの?」
蓮は咄嗟に左手を確認した。しかし、そこにあの時、矢が刺さったはずの傷はなかった。それでも痛みの記憶ははっきりある。
「ねえ、僕たちはあの後どうなったの?」
「俺にもわからない。だが、家の者の話だと、夕方には一人で家に帰ってきてそのまま部屋で寝てたらしい。さっき優仁の母親にも聞いたが優仁も同じ状況だったらしい」
どういうことだ?誰かが俺たちを操って家まで帰したというのか。何故わざわざそのようなことを。
「あの時僕らを助けてくれたライオンの星霊はレオだよね?ねえ、蓮。蓮は何か知ってるんじゃないの?初めて僕が襲われたときにいたライオンの星霊にむかって蓮はレオと呟いたよね?」
本当のことを話すべきか何度も悩んだ。優仁がハートの女王と手を組む結末を避けられるかもしれない。
でも、それは同時に優仁があの最悪の選択をする結末を話すことになる。そうしたらきっと優仁は苦しむだろう。自分のせいで世界がなくなる寸前までいったのだから。
蓮は優仁にこれ以上苦しんでほしくなかった。優菜の件で優仁は十分苦しんでいる。蓮や友人たちの前では気丈に振る舞っているが内心は違うはずだ。
「獅子座ってラテン語でレオっていうだろ?だから、初めておまえが襲われた時、ライオンの姿をしてたから獅子座=レオだと思っただけさ。俺にはこの事態を把握しきれてないよ」
苦し紛れの言い訳だった。それでも、優仁には何も知らせないまま、どうにかこの星霊戦争を終わりにしたい。自分勝手な考えかもしれない。蓮には優仁に本当のことを言う勇気がなかった。