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 イキシアと呼ばれた少女は目の前で硬直した少年にそう言った。

 彼の名前と、彼が望んでいた甘美な言葉で誘惑して。

 少年は、教えてもいないはずなのに。

 少女は、少年を見上げた。

 まあるい、まあるい瞳が少年を見上げる。少女の瞳を覗き見る。

 そこには深海があった。

 深い、深い青に彩られ、少女の瞳にすべてが吸い寄せられ、押しつぶされるかのように少年を魅了した。

 少年は、その先に何があるのかを考えてしまった。

 少女と過ごす、自分の姿を。

「逃げるって、どうやって」

「隠し通路が、ここにあるんです。だから、一緒に逃げましょう」

 少女は、荷物を数センチ横にずらすと、そこには奥へ抜けるための横穴が存在した。

 すべてを飲み込んでしまうかのように、暗い、暗い横穴がその場所には存在していた。

 まるで、父親を飲み込んだ地下室への扉のように、その穴はそこにあった。

「でも……」

「どうしましたか?」

「お父様が、なんて言うか。それに、見つかったら――」

「大丈夫。逃げて、一生懸命逃げればいいの。私と一緒に居れば、捕まることなんてありえないんですから」

「ほん、とに?」

「はい」

「本当に、つれてって、あの場所から逃げて……」

「あはっ、もう、ずっと離しませんから。死んでしまっても、潰されたとしても、たとえ誰かに壊されてしまったとしても、ずっと、ずっと一緒なんですよ?」

「ああ、その先にイッテミたい。行く。連れテって僕を、先に……」

「もちろんですよ。一緒にイきましょう?」

 少女の口元が、ゆっくりと笑みの形へと変わっていく。

 スローモーションがかかっているかのように、ゆっくりと、大きく。

 少女の笑みに魅かれていくように、少年は、彼女の伸ばされた手のひらに、自らの命をつなぎとめる片手を添えた。

 ぎゅっと、温かい、人間の血の通った温かさが、少女の手にはあった。

 少年が、イキシアの手に引かれて奥の暗がりへと消えていった。

 そして――、



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