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少年は少女の言葉を胸に抱えたまま、すぐにその場を去った。
彼女との別れを惜しむ気持ちもあったし、一人でその場を去るのがとても怖いという気持ちももちろんあった。
誰かに会ってしまう、という気持ちもなくはなかったが、先ほどの貴族たちの会話を考えるに入口の方まで回ってくるのはもうちょっと先だろうと見当付けていたからだ。
幸い、彼女と会った帰り道で誰かに出会うことはなかった。
まだ地下の一室も閉められてはいないらしく、少年が父親の姿を認めると、安心したかのように小さき息を吐いた。
戻ってきた少年に気が付いたのか、父親も驚いたような表情で彼を出迎える。
「こんなところに居たのか。探したんだぞ」
「うん、お父さん」
「主催の人間と会うことが出来た。商品を見ても大丈夫なようだ」
「本当? よかった」
少年と父親が二人で待っていると、奥の方から正装をした偉そうな人が出てくる。
どうやらその人物がこのオークションの主催者のようで、貴族である父親に揉み手をして近づいてきた。
「このたびはどうも……。商品が見たい。ということですので、こちらへ」
「ああ、すまない――ほらいくぞ」
「あ、うん」
少年と父親は主催者に誘われて、奥の方へと足を踏み入れる。
少年は先ほど通った道を先ほどとは別の意味でドキドキとしながら歩く。
ステージの袖の扉から入り、物が雑多におかれた通路を抜ける。先ほどまで少女と喋っていた大きく開けた物置を奥の通路へと抜ける。
しばらく歩いていると、檻のような物と、幾つかディスプレイされている今回のオークションの商品が見えてきた。
しかし、
「あれ……?」
「どうかしたのか、なにか気になることでもあったのか」
「い、いえ……あの、一人、女の子がいないな、って……」
「女の子……ですか? うちの奴隷は誰も逃げ出してはいないはずですが……」
「どんな娘だったんだ?」
「えっと、頭に赤いリボンの髪飾りをつけた金髪の……」
「赤いリボン? さあ、そんな奴隷はいませんよ」
「で、でも……僕は」
「居ませんよ。うちに居る奴隷は、今あなたが見ている物がすべてでございます」
あわてて、少年がもう一度牢屋の中を見る。
中には怯えるように身を震わせているボロ布をまとった竜型亜人の少女。いまだに逃げようとしているのか、足枷を必死になって壊そうとしている人間の男子。
ほかにも数人の商品が居る中で、少年は端から端までくまなく探した。
しかし、先ほどまで一緒に居たはずの少女の姿はどこにもなかった。
まるで、自分が見た幻であったかのように。
「ねぇ、あのリボンの子は――」
「本当に、居ないのかね?」
少年の反応に、父親も疑問に思ったのか、主催の男にそう問いかけた。
主催も怪訝な表情を見せて頭をかく。
「そう言われましても……ここに居る奴隷が全部でして……」
「そんな……そんなはずは……」
「どうにも、なにか幻でも見られたのでは――」
「幻……?」
彼はそんな言葉を振り払うように頭を振った。
そんなはずはない。だって……だって彼女はさっきまでそこに。
彼は、主催者に礼を言うとすぐに去らず、主催者がその場を後にしたのを見てから、ゆっくりと来た道を戻る。
途中、彼はふと考える。
本当に、彼の見た物は、幻、だったのであろうか。
確かに、現実感のない少女だった。
作り物のように整った顔立ちも、自然の色に染めあげたかのような金髪も、推奨に深海の色を溶かし込んだかのような瞳もすべてが現実離れをしていた。
本当に、彼女は……。
彼は、足早に倉庫へと歩き始めたのだった。




