4
どこからか、そんな声が聞こえてきた。
一瞬、ここに忍び込んだのがばれてしまったのか、と少年は思ったが、慌てて振り返り、そうではないのだとすぐに理解する。
声のした方向――少年の背後に立っていたのはあの時の少女だったからだ。
あの時と変わらず、とても美しい金髪と深い深海色の瞳。
そして、まるで劇の中の役者が着るように不釣り合いなボロ布をまとったその姿で。
「あ、えっと……」
少年がなんて答えてよいのかわからず、あたふたとしてしまう。
それはそうだ。
いくら貴族の少年、と言っても彼はまだ十二になったばかり。ましてや少年は引っ込み思案で外に出ることもまれな少年だった。
自分と同じ年のくらいの子供と会ったこともない彼にとって、初めて面と向かって合う少女は未知の存在だった。
「心配なさらないでください。大人に告げ口する王なことはしませんから」
彼女の言葉に助かった、と少年が思うと目の前の少女は困ったように眉を細める。
どうしたのだろうかと、少年が不思議そうな顔をすると、少年の様子に気が付いたのか、
少女が、少年の手を取った。
「あ、え?」
意味も分からず、少年が身を引こうとすると、思っていたよりも強い力で少女が少年を、荷物があるもの影のほうへと引っ張ろうとしていた。
少年が動こうとしないことに気が付いたのか、少女はまた困ったような表情を少年に見せた。
「あ……。こっちに来てください」
「え? ど、どうして……」
「早く」
少年はされるがままに彼女の後ろについていった。
慌てたような表情で、少女が少年の手を取って置かれた荷物の影に移動する。
少女のぺたぺた、というはだしで歩く音がやけに耳に響いて聞こえてきた。
「なにを――」
しているの?
そう聞こうと思った少年の口元が、少女の柔らかい手によってふさがれてしまう。
しばらくそうしていると、奥の方からだれかがやってくる足音が少年の耳にも聞こえてくる。まるで、誰かを探しているかのような会話の内容に少年が身を固くする。
「おい、こっちに居たか?」
「いや、見ていない。倉庫のほうに戻ったんじゃないか?」
「そんなはずは……いや、一度戻ってみるか」
その声はすぐにその場からなくなると、奥の方へと消えていった。
息をひそめる二人。
お互いの呼吸の音だけが、二人の耳に聞こえてきていた。
そして、誰の足音も聞こえなくなったとき、少女が初めて手を離した。
「あっ……」
声が出てしまって、少年の頬が熱くなる。
まるで、これでは自分が彼女に触れるのを求めているみたいではないか。
そんな風に思ってしまった自分が恥ずかしくて、なんとなくばつが悪くなってしまう。
「ごめんなさい。迷惑、だったでしょうか?」
少年が少女のほうを見ると、そこには少女の顔が近くにあった。
どこか、諦めてしまったかのように濁った瞳も、綺麗に梳かれた髪の毛も。
今、触れてしまえそうなほど近くに、そこがあって……。
まるで人形のように整った顔立ちがすぐ、目の前にある。
先ほどとは別の……、もっと顔が熱くなるようなドキドキを少年は感じてしまう。
「あ、うん。大丈夫、です」
「あぁ、よかったです。ここに忍び込んだのがばれてしまったら、きっと怒られちゃいますから」
「えっと、それは僕も?」
「そう、ですね。もしかしたら、あなたも怒られてしまうかもしれません。私も本当はここに来ちゃいけない、って言われてるんです。だから――」
少女はそう言って、人差し指の指先を口元にあてる。
「二人だけの、秘密ですよ?」
そう言って、少女は微笑むのだった。




