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そこにはオークションの品が並べられていた。
いくつもの金品。いくつもの貴金属。そして奴隷――。
しかし、少年の目はそこには向いていなかった。
オークションの商品として並べられたものの、一番端。
明かりから漏れた一番端に、ゆっくりと上がってくる、綺麗に装飾された『商品』
それは、ぼうっと天井のほうを見つめていた。
他の『商品』とは違い、諦めているのだろうか、その瞳は濁り、空虚な青色をその目に宿らせていた。
他の奴隷と同じく、ボロ布をまとってはいるが、他の子どもたちとは違い、恐怖にくすんだ表情、などというわけではなく、まるでされるがままの人形のような表情だった。
まるで作られた人形のように整った顔立ち。深海色の青い玉を入れ込んだかのような瞳。唯一許された装飾なのであろうか、育ちが良いとみられる綺麗に好かれている金髪は肩甲骨のあたりまで伸びた髪に人の血のように赤いフリルのリボンがまかれていた。
少年が目で少女の視線の先を追っても、映るのは天井ばかり。
やがて、そんな少年の視線に気が付いたのか、その人形――少女の方から、視線を少年に合わせてくる。
自分と同じ場所を見ていると気が付くと、少女は舞台に上がって初めて表情を和らげた。
何かが、少年の横を通り抜けるような感覚に襲われた。
ただ、ただ少女は微笑んだだけだった。
今まで空虚な瞳をしていた少女が、ただ……。
そんな何気ないしぐさ、それだけで少年は思わずドキッとしてしまう。
じっと、少年が少女を見つめ続ける。
今までのオークションの商品など見向きもせず、最後の少女だけを。
どれだけの間、少年はそうやって彼女を見続けていたのだろうか。
「――以上で、今回のオークションを終了いたします。わざわざ足を運んでいただいて、ありがとうございました。商品につきましては――」
司会の終了を告げる声にハッとして少年は周囲を見渡す。
周囲の客は満足げな笑顔を浮かべたり、自分の目的の商品を落とせなかった悔しさに嘆いた顔をしているのを見て、ようやく自分が終了まで彼女に見入ってしまっていたことに気が付いた。
もう一度、少年が舞台に視線を戻すと、少女はゆっくりと舞台の袖へと引っ張られて行くところであった。
奥へと消えていく彼女の表情は、また暗く、寂しい表情のままで……。
少年は、じっと少女が消えていってしまった場所を見つめ続けていた。
「あの子は……」
「どうした、ぼうっとして」
「……お父様」
「なんだ?」
父親の方も、目的の商品を手に入れることが出来なかったのか、少し落胆したような表情を息子に見せていた。
少年は、まだ熱にうなされたかのような頭で次に出てくる言葉を考える。
どうやったら、あの少女にもう一度会えるのか、を。
「あの商品を見せてもらうわけにはいかないのでしょうか……」
「ふ、お前から聞くなんて珍しいな」
「あ、いえ……その……」
「今の舞台で気になった物でも見つけたのか?」
「…………はい」
「いいだろう、主催者に聞いてあげよう」
「ありがとう、ございます」
息子の思ってもいなかった提案に、若干面をくらいながらも父親は大きくうなずいた。
何よりも、引っ込み思案で自分を出さなかった彼が自分を頼った、という点に大きく満足感を得たらしく、少年の様子がおかしい、ということには微塵も気が付かなかったようだった。
少年は、じっと舞台のほうを眺めているだけだった。




