不老不死を願う…
最近見た夢で、印象に残って忘れられなかったので、文章にしてみました。
まんま書くと陰鬱になるので、かなり脚色してあります。
因みに、夢の中では、自分は呼び出した側です。
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嫌な夢を視た。
夢の中で、俺は魔法陣を作っていた。
呪文と唱えると、魔法陣の中央に異様な色彩の光が舞い、悍ましい煙が渦巻いた。
そして、顕現したのは、吐気を催すような醜怪な姿をした超次元のモノだった。
それでは、本編をお楽しみ下さい。
呼ばれて飛び出て、じゃんじゃじゃん。
ワシを呼び出したのはお主か、小僧。
そうじゃ、その通り。ワシが全能の大魔王じゃ。
どうだ、驚いたか。
え? 大した事無いって……。
ほっとけ! ちっとは驚けよ。……驚いた振りでもええから。
まぁ、ええわ。
そんで、なに? 自分、ワシに何の用なん? 一応、大昔からの約束事があるさかいな。何でもゆーこと聞いたるで。一個だけやけどなぁ。
ああ? 何、もごもごしてるねん。やってもらいたい事とか、叶えて欲しい願いとか、あるんやろ。なら、堂々とゆーたらええねん。かめへんから、いっかいゆーてみ、自分。
え? 何で関西弁かやて?
ほっといてくれ! これは生まれつきや。
あん。なんやねん。……微妙にアクセントがちがう?
ほっとけ! せやから、ワシは関西弁なんや。別に河内弁とか大阪弁とかでないんや。広域地方言語っちゅうか、狭い地域には囚われとうないんでな。
いや、それより願い事や。取り敢えず、自分の願い、ゆーてみ。
ふむふむ。あー、そーねぇ、……ふろーふし、ってやつ?
えー、ホンマにそれでえーねんか? 後悔とかせんよな。
……取り敢えず、『ふし』ってところは、死なないって事で『不死』でえーんやな。
うん、ええんやな。
ところで、『ふろー』てのは、『不労』って事でえーか。
違うって、なんや。じゃぁ、『浮浪』って意味やろ。自分、まっとうな仕事、出来そうに無いもんな。
なんやなんや、エラソーに。ワシかて漢字くらい読めるがな。
てことで、自分の願いは『浮浪不死』って事で……。
あああぁ、うるさい、うるさい。うるさーい! 黙れ。
分かっとるわ。ちょっとボケかましただけやないか。
あっちはどーなっとるか知らへんけど、ここら辺じゃーなぁ、ボケのひとつも出来んと構ってもらえへんのや。
そうそう、ワシくらい年取ってると物忘れもひどーてな、……違うわっ。だれがボケ老人やねん。
てか、自分、突っ込みうまいな。
ボケた奴がおったら、すぐ突っ込む。これが大事やねん。
自分、スジえーんとちゃう。
あーあー、分かっとるって。
えーやん。ボケのひとつくらい。
長いこと、だーれもワシのこと喚び出さんかったから、話するん久々でな。
それより聞ぃたぁ。ご近所の奥さんったら……
あー、悪い。悪かった。
ワシが悪かったから、行かんといてぇな。
冗談、冗談や。ちゃんと願い事きいたるさかい。行かんといてーな。
あー、せやせや。悪かったわ。反省しとる。
スマンな。
て事で、改めて願い事、聞こか。
ふむふむ、『ふろーふし』やな。
じゃぁ、『浮浪不死』って事で……
あー、ごめん。悪かった。もうしません。
……つうか、そこは普通に突っ込むところやろ。自分、気ぃ短いんとちゃうか。
ま、ええわ。
ええーっと、『不老』ね。年取らへん、って事でええか?
うん、ええんやな。よっしゃ、なら願い事は……
っあ。
人がボケる前に突っ込むなや。
いや、スマン。
せーへんて、もう。
なんや、「ボケる気まんまん」って。
分かった、悪かった。ワシが悪かった。
えーと、願い事は、『不老不死』。これで決まりでえーんやな。
追加することとか、あらへんか。
えーっと、ホラ、あれや。細かい取り決め事とかあるやろ。あるやろ、何か。
例えば、食事は流動食は嫌やとか、納豆は食べれません、とか。
え? え? 自分、知らんの?
不老不死ゆーたら、一番簡単なんは、生体時間の凍結やからな。
一生止ったまんま。ちゅーか、不死やから永遠やけどな。
あっはっは、今のウマイやろ。てか、突っ込んでぇな。自分、乗り悪いで。
えっ、え? 何や、うるさいなぁ。
アカンて。何? 今更、何ゆーてんの。
不老不死にしてぇーってゆーたんは、自分やん。
せやから、ちゃんと詳しい条件っつーのをいうてくれなアカンやろ。
そうかぁ。生体時間の凍結は無しでって、と。
で、自分、もうええんか、条件は?
えーっとぉ、代謝をギリギリまで落とすから、寝たきりになるけど。寝間着とかベッドとか、何か希望する? それとも、畳に布団派か、自分。
あー、うるさい。聞こえとる。充分聞こえとるから。
何? 自分、何ゆーとるん?
寝たきりは嫌。
まー、せやろな。ワシかて、長生きしとるけど、寝たきりは詰まらんもんな。
じゃあ、『寝たきりでも生体時間停止でもない不老不死』って事で。
ええか、後悔せんな。後で、訴えたりせーへんように。
まぁ、皮膚と筋肉とか固めるから、口もきけへんけどなぁ。あっはっは。
うっわー。今のは効いたわ。きっつー。
嫌! 嫌なんか。
しゃーないな。
なら、『寝たきりでも生体時間停止でもない口もきける不老不死』やな。
だからぁ、細かいとこ煮詰めんとアカンゆーたやろ。
まぁ、ええわ。願いはきいたる。ワシかて、これでメシ喰うとるさかい。
そうそう、メシ言うたらなぁ。このまま不老不死になったら、味とか分からんようなるけど、ええな。
うんうん。なんたって不老不死やもんな。それくらいはガマンしてもらわんとな。
あっと、忘れるとこやった。代謝系をイジるんで、エッチとか出来へんようになるけど、えーな。なんたって不老不死やもんな。それと、怪我とかすんなよ。怪我しても治らんから。
わぁー! うるさい、うるさい、うるさーい!
何? 自分、何様?
アカンの? エッチ無しは我慢できるけど、傷は治って欲しい。
うんうん、せやな。怪我治らんのは辛いなぁ。
せやから、細かいとこ決めるねん。
せやな、『不老不死、ただし普通に代謝出来て、運動機能に障害なし』で、どーかな。
ええか? うん、まあね。ワシもこの商売長いからな。作文は上達したんや。
じゃ、願い事、叶えるで。
あっと、せやせや。肌の色、緑色になるけど、かまへんな。なんたって不老不死やもんな。
それと、背ぇ縮むから。えっと、身長二十ミクロンくらい。
かまへんやろ。不老不死になるんやから。
あー! 分かった、分かったから、黙れ! うるさいわ、自分。
身長二十ミクロンは、嫌なんか。
まぁ、せやな。そこまで縮んだら、ミジンコやもんな。いや、緑色やから、ミドリムシか。あっはっは、うまいやろ。ワシ、これでも国語の成績は良かったんやで。
じゃ、自分、身長いくらくらいがええねん。取り敢えず、百七十でええか?
あっ、そう。ミクロンでもメートルでも無い、っと。
分かった分かった。身長百七十センチやな。
え? 体重は五十五キログラムで?
自分、頭ええな。ちゃんと予防線、張ってきよったな。
よしよし、ええで。『不老不死、ただし普通に代謝出来て、運動機能に障害なし、身長百七十センチ体重五十五キログラム』っと。
んと、もう他に無いな。ええんやな。ほんまやな。
よーし、よしと。んじゃ、やってみるか。
あっと、そうそう。この方法で不老不死になったら、電気系のパルス、うまく通らんようなるから、知能が下がるけど、ええよなぁ。不老不死やし。
わぁー。ストップ、ストップ。
しゃーないやん。こんだけの条件だけで、不老不死になるんやから。
え? せやから、脳神経の通りが悪うなるんや。ワシも、よう分からんけど。
んーと、ハムスターくらいの賢さは残ると思うけど……。
アカンか?
もうっ、我儘やなぁ。
どないせいゆーんや。
だから、細かいところ決めなアカンて、ゆーたやろ。
えっ? もうええって。
それは無いやろ。こう見えても、ワシかて一生懸命やってんや。自分の願い事を叶えてやろって。その辺は分かってくれな。
うん、そうや。うんうん。分かってくれたか。
じゃ、改めて、願い事、聞こか。
えー、そないな事、言わんと。
ほら、遠慮なしに言いなや。
肌の色はどうする? マンセルでいくつくらい?
髪の毛は、何万本くらいにする?
身長・体重は聞いたよな。
足の指は、三本でどうや?
肺活量は? 握力、どのくらい? 声の高さとか、眼の色は?
爪とか無くてもええよな?
それから、それから……
<もーええかげんにしてくれっ!!>
俺はそう叫んで直径二十センチほどの魔法陣を踏み潰した。
了