4時間目 目的地に向かってサイクリング
キーワードから場所を導き出したにもかかわらず、陽は教室に貼られている村の地図を見てため息をついています。
「陽くん、どうしたの?」
「安柄っていうことは、この小学校からだいぶ離れたところなのか」
陽は村の地図を指さしました。和登たちが通う山繁北小学校の場所は、村の中心から離れた山奥にあります。そこからさらに奥へ入ったところにあるのが、安柄という小さい集落です。
でも、6年生で安柄から通う子供は1人もいません。何よりも、小学校から安柄までは気の遠くなりそうな距離があります。
「安柄へ行くには、自転車を使わないといけないけど……」
「でも、このクラスで安柄から通うのはいないし」
あまりにも遠い場所に、クラスのみんなはため息をついています。未知の場所へ立ち入ることへの不安を隠せないのも無理はありません。
そんな中にあっても、和登だけは気にするそぶりを見せることはありません。
「そんなことでクヨクヨしたって始まらないぞ! 分からなかったら、おじちゃんやおばちゃんに聞いてみるといいよ!」
和登の言葉を聞いて、他のみんなもいつもの明るい顔つきに戻りました。これを見て、和登はさらに言葉を続けました。
「それじゃあ、明日の朝にみんなが小学校の前に集まるということでどうかな?」
「和登くんがそう言うのなら、わたしも賛成よ」
学級委員の由紀奈が和登の提案に賛成すると、他の3人も次々と賛成に回りました。
「これで決まりだね! 『やすがら』の公民館まで、みんなで自転車に乗って行くぞ!」
意気揚々(いきようよう)と言い続ける和登ですが、あの地名の言い間違いをみんなの前でしてしまいました。
「もうっ! 和登くんは何回言っても読み方を間違えるんだから!」
「あっ、そうだった! 『やすがら』じゃなくて『やすえ』と読むんだった」
みんなの前で自慢するつもりが、地名の読み間違えで和登は思わず顔を赤らめました。
次の日、小学校の前には自転車にまたがるクラス5人の姿がありました。朝から太陽が照りつける暑さの中、これから安柄の公民館へ向かってサイクリングしながら行くところです。
和登は、今から何があるのかワクワクしている様子です。
「どんなものがあるのかな? 『やすがら』の公民館に早く行ってみたいなあ」
「それは『やすがら』ではなくて『やすえ』! もうっ、和登くんったらいつも間違えるんだから」
行き先の地名を間違える和登に、由紀奈が指摘するのは相変わらずのことです。
「お~い! そんなところで話をしていたら置いて行くぞ!」
「村の地図が家にあったから、分からなかったらこの地図で確認するからね」
純平や陽の呼びかけに、和登たちは5人そろって自転車に乗って出発しました。最初は平たんな道でしたが、少しずつ奥に入るにつれて急な坂道になってきました。
長く続く坂道に四苦八苦する中、和登は他のみんなよりも前に出て自転車をこぎ続けています。
「和登くん、1人で先に行かないでよ!」
「自分勝手なことをしたらいけないって何回も言われているのに」
「ちぇっ、こんな坂道ぐらいどうってことないってば」
和登は、みんなが合流するまで坂の途中で待つことにしました。再びみんなで先のほうへ進むと3つの方角に分かれるところへきました。
「左の方向へ行ったほうがいいよ! 公民館もこの辺りだし」
陽が地図を広げて行き先を確認すると、和登たちは自転車に乗って左の方向へ進むことにしました。しばらくすると、段々畑の間に家がぽつぽつと点在する風景が目に入ってきました。
「地図だと、ここが安柄となっているけど」
「じゃあ、少し足をのばせば公民館も見えてくるんだね」
和登たちは、目的地である公民館を目指して安柄の集落へ入って行きました。