3時間目 正解のカギはアルファベットの1文字
3枚目と4枚目が解決すると、残るは1枚目と2枚目です。しかし、1枚目の『extra』が何を示すものかはまだ分かりません。
「和登くんの言うことが正しいのなら、『extra』も暗号ということになるけど……」
由紀奈は、1枚目の紙切れを眺めながら首を傾げています。そこへ、和登が自分のノートを自慢げに開いています。
「これを見て見て! 2枚目の地名を、さっきみたいにローマ字にしたから!」
和登は、純平に負けじと地名を訓令式のローマ字に直しました。これを見た由紀奈は、筆箱から赤ペンを出して和登の答え合わせをしました。
「自信満々なのもいいけど、その前にちゃんと勉強しておかないと」
「え~っ! これくらいだったらいいでしょ!」
赤ペンでペケをつけられて、和登は納得いかない様子です。しかし、どんなに頼んでも不正解であることに変わりありません。
「和登くん、そんなにふくれないの!」
「だって、だって……」
菜月が励まそうとしても、和登はふくれっ面になったままです。そんな和登に、菜月は再びある言葉を掛けました。
「相口と双川だけど、いずれも『k』ではなくて『g』にしないと正解にならないよ」
「相口は『aikuti』ではなくて『aiguti』なのか。それなら、双川も『hutakawa』は間違いだから『hutagawa』に直さないといけないのか」
和登は、菜月の言われた通りにケアレスミスとなった部分を直しています。しかし、まだ不正解で直していないのがまだ1つあります。
「安柄というのは『yasugara』じゃなくて、別の言い方があるでしょ」
「どういう読み方か、教えてくれよ」
「だ~め! ちゃんと自分の頭で考えないと」
何でも人をあてにしているようでは、ちゃんと覚えることができません。和登は自分の力で考えようとしますが、なかなか正解が出てきません。
そんな和登に、純平が口をはさんできました。
「まだ答えが出てこないのか? それぐらいの問題だったら、ちゃんと答えが出てくるはずだけど」
「何だと? だったらやってみろよ!」
「そんなにカッカしていたら、和登らしくないぞ」
純平の言葉に、和登は不快感を隠すことができません。そんな和登を横目に、純平はすぐに正解を出しました。
「やっぱり簡単じゃないか。安柄というのは『やすえ』と読むから、ローマ字で書くときは『yasue』となるわけで」
得意げな表情を見せる純平に対して、手柄を取られた和登はくやしそうです。
そんな中、陽は1枚目の『extra』を見てこうつぶやきました。
「和登が『xyz』を『バツ・ワイ・ゼット』と言ったのが大きなヒントになったから、これも同じように考えると……」
陽は紙切れを見ながら考えていますが、どうしても引っかかる部分があります。それは、あるアルファベットの1文字です。
「これで、『t』と『r』と『a』のアルファベットがある地名ではないのは分かったけど……。問題は、最初の『e』なんだよな」
頭を悩ます陽のそばにやってきたのは、何か言いたそうな顔つきの和登です。
「その『e』は『バツ』じゃないって! 『バツ』じゃないから……」
「あっ、分かったぞ! 『e』が必ず入る地名ということは……」
陽は和登のノートを見ると、ある地名に目が止まりました。それは、和登が正解をだすことができなかった地名です。
「安柄はローマ字で書くと『yasue』、友井は『tomoi』となるけど、この2つの地名の中でアルファベットの『e』が入るのは安柄だけだ!」
「じゃあ、紙切れに書いていたのは安柄の公民館ということか!」
紙切れのキーワードから答えが出たことに、和登は喜びを爆発させました。答えに導くためのヒントを出したのは和登自身だからです。
和登の喜びように、横目で見ていた純平は心の中でこうつぶやきました。
「やれやれ、和登は相変わらずテンションが高いなあ」