決闘
遅くなってすいません、とりあえず投下します。
「始め!」
その声を聞いても、俺はその場を動かなかった。
(実力を見られるのなら、すぐに動くのは愚策だ。じっくり見極めてから素早く決めるのがいいだろう。…というか、流石と言うべきか隙が見つからないな)
そう思っていたからだ。アニダさんも開幕そうそう仕掛けてくることはなく、こちらの出方を見ている様子だ。
これは我慢比べになる、そう直感した。
開始の合図から既に5分が経過した。その間、俺はほんの僅かずつ重心を下げていた。そう、その事を読んでいなければ気づけないほど僅かずつ。
そして。
「っ!」
相手が動きかけた瞬間、俺は溜めに溜めたバネを使い、駆け出す。普段の全力に近いその速度に対して相手の取った行動は、『木剣を全力で振り、弾く』だった。
恐らく、下手に受けるより全力でスイングすれば上手く体勢を立て直せると思ったのだろう。
『高速思考』を用いてそう考えた俺は、しかし敢えてそれに乗りに行く。
軽い上段からの振り下ろし。流石にそんな攻撃が通る訳もなく、弾かれる。そこで敢えて後ろに軽く跳び、誘う。しかし着地と同時に再び地を蹴り、間合いを詰める。体勢が完全に崩れかけているところに、俺は顔面を狙って突きを放つ。対し、相手は剣を顔の前で横にして、防ぐ。
それにより、完全に体勢が崩れた。仰け反ったような体勢の相手に対して、俺は素早く彼が剣を持つ手と逆側、つまり彼の左手側に移動する。
剣を引き、腰を落として突きの体勢を作る。そしていざ、というタイミングで、
「そこまで!」
という声が響く。その声の直後、木剣を手放し、
「ふぅ…緊張した…」
言って座り込む。
流石に5分以上の間、あれだけの集中を保つのは辛い。『高速思考』を使ってしまえばさらに体感時間が伸び、立っていられたか分からない。そう考えると今回は薄氷の勝利だったと考えていいだろう。
そこまで考えた所で、声が掛かる。
「ん、お疲れ。しかしお前強いな、手も足も出なかったよ」
「そんな事ないですよ、今回は剣を打ち付け合っての決闘とかでは無く、尚且つほとんど運との戦いでしたから。僕自身がそこまで強いわけでは無いですよ」
そうアニダさんに返し、差し出された水を受け取る。一口で飲み干し、立ち上がる。すると、再び空気になっていたリンから声が掛けられる。
「す、すごかったですね!ずっと睨み合っていたかと思ったら凄く 早く動いて、気づいたら終わってて…何があったんですか?」
「あぁ、あれはな…」
説明しようとして、アニダさんに止められる。
「それは俺が説明するよ、シュウトは休んでいてくれ」
「あ、じゃあお願いします」
大人しく引き、腰を下ろす。その後、説明が始まる。
「まず、駆け引きは開始と同時に始まっていたんだ。シュウトは、俺が『試す』為に待ちの姿勢を取ると考え、敢えてそれに応じた。そうすれば我慢勝負となり、早まった方が不利になる可能性が高まる」
まあ、そうだな。試されるのは俺だから俺に先手を譲ったようにして、その実しっかり俺の動きを見て反撃しやすいように、と。それを信じていたから俺は動かなかった。
「ただ、それにより俺の計算に誤算が生じた。俺は、シュウトがすぐに突っ込んでくると確信していたが、実際は真逆で待ちに徹した。その事が計算を狂わせ、白紙に戻された。そこで俺は戦法を考え直す必要が生まれた。一方でシュウトはそこまで理解していた為、余計な考えを巡らせる事もなかった。そこで立場は逆転したと言ってもいいかもな」
確かにそうかもしれない。開始前は試される側の俺が頭を回し、策を巡らせていたが、開始直後に俺が動かなかった事で、逆にアニダさんの作戦が狂い、再考する必要が出来た。
「それからは我慢勝負だった。とは言え、ただ立って考えていただけの俺とは違い、シュウトはその時間をフルに使って行動をしていた。ほんの僅かずつだが、重心を下げ、足の幅を拡げていた。それこそ、最初からそれだけに集中していなければ気づけない程。つまり、出来た時間を存分に使って『溜め』の動作を行っていた訳だ」
そう、そこが本当に辛かった。『最悪の場合死ぬ』という状況で五分集中力を維持し続けるなんて、辛い以外にどう言えと。
「その後、シュウトは焦った俺が攻めに転じるために反動をつけようとした瞬間迷わず地を蹴り、迫ってきた。バランスを崩しかけた俺は全力で剣を振りぬき、弾かれたまま後ろに跳んだ演技により逆にバランスを崩させたと思わされた。そして攻めようと重心を前に傾けた瞬間再び迫ってきて、俺は顔だけを上げかけ、再びバランスを崩される。そして顔を目掛けて繰り出された突きに対して剣を横に持ち、『受け』てしまい、完全に崩れた。そこからシュウトは剣が届かない左側に動いた。そんな感じだ」
まあ、そういう事だ。後半説明が雑になったのは仕方ないだろうな。
ステータスを見れば普通の斬り合いでも良いと思うが、残念な事に『経験』の差は大きい。だから俺は経験が少ないであろう『奇襲』で挑んだ訳だ。
敢えて不規則に動く事で何年も積み重ねてきたパターンを崩す。それがベストだと思い、実際にそれで勝った。……まあ、次は通用しないだろうが。
「凄いです!この村でもトップの実力を持つアニダさんに勝っちゃうなんて!本当に凄いです!」
激しく興奮した様子のリンにより、思わぬ情報が入った。
「へぇ、アニダさんってそんなに強かったんですね」
「そうですよ!強いんです!」
「ははっ、一旦落ち着け。…思ったより弱くてがっかりしたか?だったらすまんな。だが次はこう上手くはやらせないぞ」
「分かってますよ。寧ろああでもしないと勝てない、と言うぐらいには差がある」
「まあ、やっぱりそこは経験の差なんだよな。大丈夫、すぐに俺なんて追い抜けるさ」
「はい、そうなれるように努力します」
言って握手を交わす。隣にはどこか羨ましげに見ているリンがいた。
戦闘描写苦手だなぁ