表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートな『俺』は異世界にその名を轟かす  作者: 唯
第一章 死亡。そして、はじめてのいせかい。
18/28

それは未来からの警鐘(メッセージ)

IF話ではありません

 気付いた時、世界は赤一色だった。ただ数秒の後に言葉を改める事になったが。

 世界が、火に包まれていた。



 (夢、なんだよな...?)

 中空から俯瞰しているような位置なこともあり、遠くまで見渡す事が出来たが、見渡す限りの火の海は、それが夢である事を疑わせる程リアルだった。

 そして真下を見下ろすと、そこには女の子を抱えて叫ぶ男と、悪意に満ちた笑顔をそいつに向けているやつ(・・)がいた。


 「どうして、どうしてこんな事を!」


 叫んでいるのはどうやら俺のようで、ただそこよりもっと気になるのは抱えられている女の子の方だ。彼女の歳は俺と同じぐらい。はっきりしないが一つだけ確かなのは、彼女の命が既に失われている事だ。それは、心臓の位置に突き立てられている赤黒い刀身の短剣も示していた。

 (あの子、見覚えがあるような...。いや、待てよ?...いやそんな訳はない、しかしそれなら誰だと言うんだ、俺があそこまで取り乱すなんてそうとしか考えられない。この世界に合わせて服装や髪型は変わっているが、あれは間違い無く彼女だ。涼だ!)


 「どうしてだって?あんな事をしておいてよくもまあそんな事を言えたものだな」

 薄く笑って奴は言う。

 「俺の一番『大切な相手』を奪っておいて、ただでいられるとでも思っていたならそれこそ甘い。どうだ?今の気分は!」


 (大切な相手、だって?俺は何をしたんだ?何故涼が殺されている?そもそもこれはいつなんだ?そしてこいつは誰なんだ?)

 状況が飲み込めず、いや飲み込んではいるが心で理解し切れず、情報が整理出来ていない。ただ一つだけ分かるのは、これが最悪中の最悪だと言うことだ。そしてそうだとして、何故この場面を今の(・・)俺が見られるのか。


 「どういう事だよ!例えそうだとしても自分がそれを仕返しても良いなんてそんな訳無いだろ!そもそも一体、大切な相手って誰なんだよ!なあ!何でこんな事をしたんだよ!彼女が何をしたって言うんだよ!」

 「覚えていないか、いや、お前にしてみれば記憶に残すほどの価値も無い存在だったって事か。あいつを殺したお前を許す訳ないだろう?現にお前は今、俺の事を死ぬ程憎んでいるはずだ。その感情が爆発すれば相手を殺そうとする、それが続いて行ってしまうのが憎しみの連鎖だ。そしてお前はそれを止められないだろう。まあそれはいい。その娘は確かに何もしていない。だが同時にお前にとって最も大切な相手となっているだろう?それこそそいつが殺されればお前は怒り狂うだろうと推測出来る程に。だから、殺した。お前を最も苦しむ形で殺す為にな」


 この時の『俺』が大切な相手を殺した。そして同じ苦しみを味あわせるために涼を殺した。そう言っているのか。

 (確かにそうなった今、そこにいる俺が猛烈に怒り、苦しみ、後悔し、恐怖し、絶望しているのは容易く想像出来る。だがそもそもいつ、どこで、どんな状況で、どうしてそいつの大切な相手を俺が殺したのか。その情報が無い今では、この状況が出来上がる過程の推測も難しい。一体どういう事なんだ?)


 「だからって!彼女を巻き込むんじゃねえよ!俺に復讐したいなら俺を殺せよ!彼女が殺されなければいけないような理由があるのか!」


 無駄だなんてそんな事は下にいる俺も十分わかっているだろう。だがそれでも言わずには、叫ばずにはいられないんだ。叫ばなければ、今すぐにでも剣を抜いて斬りかかりそうなのだから。


 「巻き込むな。か。あいつに聞かせたら同じように言い返しそうだな。あいつも何もしていないというのにお前の術に巻き込まれて死んだそうだ」

 「っ!」


 (俺の...術に、だと?今の、駆け出しの時ならまだしも、今見ているこの状況はそれなりに名を上げた頃だろう。それは涼が居る事からも察せられる。そうだとしたら、それだけ術の扱いも上達しているはずで、誰かを巻き込んでしまうなんて考えにくい。それでも失敗はあるだろうからそれに巻き込んでしまったのか、或いはまだそこまででは無い頃に、何らかの術に巻き込んだという事か?)


 「そんな...俺の術が原因だったって言うのか。一体いつ何処での事なんだ?本当に俺の術のせいなのか?せめて誰なのか、いつの事なのかが分からなければ何も出来ないんだよ」

 「名前なんて知らないだろうから言うだけ無駄だな。時期は■■頃、場所は●●●の街の外にある草原だ。そこでお前が魔物達を一掃するために全力で撃った術の効果があいつのいた場所まで及んだようで、それに巻き込まれた為、体勢を崩した所を魔物に狙われ、そのまま倒れたという事だ」

 「なっ!!」


 あからさまな動揺を見せる俺。それはつまり、その状況に覚えがある、という事だろう。

 (けど、肝心の時期と場所の部分だけが聞き取れない。いや、聞き取れてはいるがそれを理解出来ていないのか?それともフィルターのようなものでもあるのか?ともかく、大まかな状況だけは分かった。だとすれば少なくとも当分、今の俺にはその状況は訪れないか)

 先の戦いで跳び上がった際には、見える範囲には街と呼べる場所は無かった。という事は、まだ先の事。それでも、記憶には残しておいた方がいいだろうな。

 この、夢なのかすら疑う夢から覚めた時、覚えていられるかは分からないが。


 「あの時、あの場所にいた、あの中の誰かが―――?」

 「そうだ。まああの時は討伐隊も半壊状態で、本当にギリギリの所で駆けつけたお前がカウントと共に全力で放った術によって、どうにか全部倒す事が出来たらしいが。それでもあれだけの人数が全員完璧に回避行動を取れるとも限らない、そして案の定あいつだけが遅れ、お前の術の余波を食らって、そのあとはさっき言った通りだ」

 「待て、まさか、あの時の前衛の――?」

 「まあお前が想像しているのが合っているのかは分からないが、恐らくはそうだ。やっと思いだしたか、この糞野郎が」

 「あ、ああ、ああああああああああああっっ!!」


 奴の言葉は全て事実なのだろう。そして聞いた事で思い出したらしい俺が感情が抜け落ちたような、又は逆に物凄い強い感情で埋め尽くされたような顔と声で、叫ぶ。


 「そうだ!あの子は俺が殺してしまったも同然なんだ!なのになんで、その事を忘れていた!?忘れていい訳がないだろ!だから今、こんな状況になっているんだ!あの事を忘れるような心だから、こんな状況が出来てしまった!恨まれても当然だろ!」


 壊れたように叫ぶ『俺』の顔を埋め尽くしているのは、後悔・自責・絶望・焦燥等の、様々な負の感情。相手への怒りすらも掻き消され、ただただ自分を責め続けるその顔に、最早希望は残っていない。同時に、理性によるストッパーが吹き飛び、切っ掛け一つで無差別に破壊行為に及びそうな程だ。


 「ああ、あああ!最悪だ!あの時の俺もそうだが、何よりもその後の方がもっと最悪だ!」

 そこまで黙っていた奴が、口を開く。

 「そうだな、最悪だ。お前も、周りの奴らも、そして、その娘もな。その娘がいなければお前はあの時の事で一生自分を責めただろうに」

 その言葉が切っ掛けとなったようで、奴に向かって術と剣でもって襲いかかる。

 「彼女を否定するのだけは許さねぇええええ!くそっ!」

 その攻撃の一つ一つを躱され、弾かれ、いなされる。その一合毎に、奴の表情が色を失っていく。

 「ああああっっ!!畜生!俺もお前も何もかもっ!死ねよおおおおおお!」

 破れかぶれになって突っ込もうとするが、奴は大きく距離を置く。

そして完全に興味を無くしたような表情で、指を鳴らす。

 「っっっ!」

 瞬間、下にいる『俺』を覆うように真っ黒な影が拡がる。その影は、上にいる『俺』すらも見えているかのように覆いにくる。そして、一言。

 「本当に残念だよ。偽『英雄』」


 偽、はいいが、『英雄』だと?どういう事だ?それだけ名が知れて、認められていたってことなのか?


 考えている間にも影は質量を増し、完全に覆おうとしていた。そして視界が闇に包まれる直前、それは聞こえた。

 「せいぜい足掻いてみるといいさ」

 それは俺に対しての言葉だ。但し、下にいた『俺』ではなく、今の『俺』だ。まるで俺が見えている(・・・・・)ように。








 そして、夢は終わる。

今更ですが1000PV行ってたんですよね!

皆さんありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ