スカウトマンは魔王だそうです
忘れてたけどスペース入れました
「魔族だって?」
言って振り返る。そこにいたのは俺より一、二歳程年上のように見える青年、だった。とはいえ人間とは違う存在であるのは一目瞭然で、それは例えば背中に生える漆黒の翼であったり、身体から漏れ出る黒いオーラからも分かる程だ。俺と同じ黒髪と、違う赤い瞳。確かに魔族なのだろうが。
「そうだ。俺は今日、とある指示に従ってお前を、所謂スカウトしに来た。どうだ?こっちに来ないか?」
「スカウト、ねぇ...」
俺が今、駆け出しではあるが『冒険者』である理由は特に無いが、冒険者にこだわるべき理由等も無い。『彼女』を探す為、そして再会した後に守る為に力を付けたいというのはあるが、ただ、魔族に加わったところでそこまでの実力が得られるかは分からないし、『指示』と言っていた事から自由がかなり制限されるのは違いないだろう。それに、見張られている、という感じがあるのは辛い。
「仮に大人しく加わったとして、俺に得はあるのか?何の情報も無い今だと、別に加わる必要は無いと思っているんだが?」
訝しむ俺に対して、
「まあ、そうだな。だが当然お前にもそれなりにメリットはあるぞ」
特に焦るでも無く言ってくる。
「メリット?」
「そうだ。例えばだが、お前の実力があればそう遠くない内に魔族をある程度纏めたり、従えたり出来る『魔王』にもなれるだろう。それに、人間と違ってルールなんて無いも同然だから、自由が無くなることもほとんど無い」
へえ。魔王、ねぇ。ん?魔王?ぽっと出の俺が?
「ちょっと待て」
嫌な予感。
「どうした?」
「魔王が魔族のトップじゃ無いのか?まさかとは思うが上がいるのか?」
「ああ、知らないのか。魔族のトップは魔王じゃない、『大魔王』だ。魔族を纏めているのは指示を出された魔王で、その魔王を通して魔族を支配しているのは大魔王だ。」
まじかよ、魔王がトップじゃないのかよ。魔族どんだけいるんだよ。
「てことは魔族がそれだけの数いるってことなんだな?トップとの間に情報を纏めて伝えなきゃいけない程の」
「そういう事だ。そしてそれが俺がお前を勧誘しに来た理由でもある」
理由?
「どういう事だ?」
「最近、魔物でも人間でも、実力関係無く魔族に加わりたいという奴らが増えている。それだけならいい事なんだが、全体的に見ても、質が低過ぎる。頭が回る奴、何かに秀でている奴がいる訳でもない。せいぜい肉壁として使える程度、そうして使い潰して行っても一向に減る気配は無い。逆に魔王になれる程の力のある者は現れず、纏める側の俺達の仕事は増える一方だ。だからこそこうして、魔族の情報網に掛かった希望となり得る奴を勧誘しているんだ」
なるほどな、大体分かった。そしてその勧誘の進捗が芳しくない事も何となく理解した。
「けど、上手くいってはいない、と」
「流石に察したか。そうだよ、勧誘しに行ったはいいが実際は大した事が無かったり、魔族などには加わらないと拒否されたり。加わった者も自由気侭に動いているせいで役に立たないどころか足を引っ張られる始末だ」
成程な。戦力となる者が増えても統制が取れてないんじゃ寧ろ足枷になるって事か。
うーん、ぶっちゃけ俺には断る理由はあるにはあるんだけど。でもこれが肯定されるなら入ってもいいんだよな。
「結論は別の時でもいいのか?」
とりあえず保留する事にした。
「まあ考える時間も必要か。真っ向から拒否されてないだけ手応えありってことでいいのか?」
「そう取ってもらって構わない。俺としてもデメリットを余り感じないし、一つだけ条件が出来れば受けたい話だが、今はまだ無理だ」
実際、デメリットはかなり少ないのではなかろうか。冒険者が来たら最悪身代わりを押し付ければいいし、もしなら逃げてもいい。比較的自由らしいから適当に命令出しておいて遊んでてもいいという。ただまだ不安も大きいので保留という事にしておく。
「了解。そう伝えておく。ただそれなら出会った魔族は悪意を感じる場合以外殺さないようにしてくれ、それで揉めるのも面倒くさい」
「分かった。...あ、そうだ、ここから二、三日行った辺りに村ってあるか?」
「あるぞ。閉鎖的な感じだが」
やっぱり戦闘中に見つけたあれは村だったのか。
「そうか、ありがとう」
「じゃあ俺は戻るぞ」
「じゃあ、また」
「ああ、良い返事を期待してるよ」
そして奴は飛び去って行った。
緊張が一気に緩み、仰向けに倒れ込む。《索敵》で見てみても魔物はいない。瞼が下がって行く。
一旦休憩だな。
そう考えた時には既に眠りに落ちていた。
土曜の夜、更新ギリギリで焦ってたり眠くて頭回らなかったりであまり上手く纏まってませんが。