出会い3
青年が碁とであったのは、幼少のころであった。
青年が住む村には、一人、やはり碁の上手といわれる者がいた。
二年に一度周辺の邑と合同で行われる碁の勝負があり、その上手な者は例年一等を取っていたそうだ。
そんなある日、一人の勝負師が邑に訪れた。
にこにこと朗らかな笑顔を振りまき、そいつは言った。
曰く、碁の上手がいると聞き、邑によった。
曰く、某も碁の腕に自身がある。一戦勝負をしたい。
曰く、今後を見据えて弟子を探している。
えもしれぬ恐れが身を包み込んだことは覚えている。
一瞬で鳥肌が総立ちになり、怖気が背のしたのほうから首筋を通り、頭の上を突き抜けた。
盤に構えた勝負師からは、そんな迫力がとってみえた。
それから色々あり、その勝負師を師匠と仰ぎ旅をすることになったのだが。
青年は首をこきりと鳴らし、目の前に座っている童子をみやる。
片手に銀を数枚手遊びしながら、にこにこと笑っている。
はてさて、童子は自身が師について行った頃よりもより若く見えた。
畑仕事の手伝いでもしているのか、肌はこんがりと焼けている。
髪は散切りで、眼はくりくりと大きく、人懐こそうな子だ。
やせ細っていないところをみると、まあまあ恵まれた家庭に生まれているのだろう。
「さて、にいちゃん。条件はさっき言ったとおりだぞ。勝ったほうが銀五枚。あと後から本気ではなかったとかは無しだからな!」
無邪気に笑う童をどうしたものかと、青年は眉をよせた。
銀五枚であれば、この年頃であれば大金であろう。
五日は飯を食うに困らない金だ。この調子で流れ者に勝負を吹っかけていたら、いつか必ず痛い目を見るろう。
ここで完膚なきまでに心を折るのがこの子のためか。
「わたしもそこまで言われて手加減をするほど出来た人ではないからな。負けて泣きべそをかくんじゃないぞ」
「おお! いいね。望むところだ」
にひひと笑い、童は盤に向き合う。
青年も頭を勝負時に切り替え、望む。
ぱしん、と気持ちがよい音が鳴った。