出会い2
「あいよ、エールとつまみの茶豆の炙りだよ」
よく炒られた豆を一つまみ口に放り込むと、ぐいとエールを喉に流し込む。
豆の塩気とエールの苦味が先ほどの勝負で熱くなっていた頭に染み渡る。
「で、遊んでくれだって? わたしは子供趣味も男に傾倒しているわけでもないのだが」
にやりと笑いながら、青年は対面に座った相手に話しかけた。
酒場で遊んでくれと声をかけられたのならば、色を売りにくる時の常套句だ。
無論、先ほどまで熱心に対局を観ていたのだから、この子供がどういうことを狙って遊ぼうと話しかけてきたのかは、青年は理解してる。
話しかけられた側は、きょとんとしてしていたが、なんのことを言っているのかわかったようで頬をかぁと赤らめた。
「ち、ちげえよ、にいちゃん。このスケベじじい。さっき碁を打ってたじゃんか。にいちゃんまあまあつええじゃん、おれも一局打ってやってもいいぜ」
ふんっ、と鼻を鳴らしすと、なぜか得意げな顔で語る。青年には子供の背後に子犬が尻尾をぶんぶんと揺らしている幻影が見えた。
なんとわかりやすく、かわいらしい。
わたしも師匠には、このように見られていたのかもしれないな、と青年は一人頷いた。
「よし、いいだろう。相手になってやろう。と言いたいところだが、しかし教えるとなると少しは金をいただくぞ、持っているのか」
勝負以外で他のものから教えを請うとき、それが一端の勝負師であるのならば半銀貨2枚が相場であった。
いくらかわいいからと言っても、自身が持っている技をタダで披露することは青年にとっても憚られる。
すると子供は頬をふくらませて反論した。
「それもちげえよ! だから勝負してやってもいいって言ったんだよ。たぶん観たところ、にいちゃん多少は腕が立つけど、おれより弱えもん」
そんな不躾な言いようには、さすがに青年もかちんときたのだろうか。
「いいだろう。では勝負しようではないか。賭金は相場の銀5枚でどうか」
頬を引きつらせながらそう答えた。
「いいじゃん。さっさと飲み終わっちゃえよ。一局指南して進ぜよう」
ふふん、と腰に手を置き胸を張りながら、先ほどよりも得意げな顔で子供はそういった。
どこで覚えてきたかしらないが、この子供には相手をイラつかせる才能があるらしかった。
碁の才能はまだ未知数ではあるが、そのことは間違いない。
青年は確信しながら、残りのエールをぐびりとやった。