出会い
パシッ。
公衆浴場の涼み場の隅、ガヤガヤとした喧騒のなか小気味の良い音が聞こえる。
ひょいと覗いてみるとやはりか、2人の男が盤を挟みすわりこんでいる。
いや、見るからに対称的な2人である。
1人は力士もかくやという大男だ。顔も頬に刻んだ傷跡が更に相まって威圧することこの上ない。
目前の優男の頭をカチ割るのでは、というくらいの憤怒の形相で盤面をにらんでいる。
一方の相対するのは、やけに線の細い男である。
細い体躯に白い肌。
口元はにこにこと笑いながら、しかし目元は緩まずしっかりと盤面を見据える。
細い腕で瓢箪を呷り、視線は盤上から外さない。
盤面をみると、僅かにこの細い男が優勢だ。
途中から三人から四人、観戦するのものがいた。
中でも、頬を上気させ、眼を輝かせているものがいた。
年は10前後、小麦色に焼けた肌が少年らしい印象を周囲に与えるだろう。
やがて、二人の勝負が終わった。
「いやぁ、お宅強いね」
大男が、がはは、と笑いながら幾ばくの銀貨を青年に渡した。
「運がよかっただけですよ。いつひっくり返ってもおかしくありませんでした」
「そうだよな、あそこでもっと上手いことできればよかったんだが」
大男は眉を寄せながら、また、一局頼むぜ、と立ち去っていった。
青年は眼を瞑り、二三度頷いてから腰を上げた。
隣接している酒場でつまみと酒を頼むと、席につく。
酒を待っていると正面の席に小さな影が座り込んだ。
「兄ちゃん、俺とすこし遊ばないか」
底抜けに明るく、楽しそうな声と、天真爛漫な笑顔に青年も思わず釣られて笑った。
この時、この出会いが盤上での一手なら、青年は注意深く思慮を重ねただろう。
しかしながら、青年の道を大きく変えるとは、まだ露ほどにも感じることはできなかった。