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08.較べてみよう

「マリモに会ってみたいな」


 ある日、ステファンはそう呟いた。それを聞いた、近くで光合成をしていた友人のユドくんたちが訊き返す。


「毬藻とはCladophorales目の群体のことかね?」

「そうだよ。極東の国・日本の北海道や、アイスランドなどで確認されるふしぎな生命体だね」

「我々の遠縁の緑藻か。淡水性であったな、確か」

「世にも美しい球状集合体を作ることで有名なんだ」


 ステファンはうっとりと遠くの湖に暮らすマリモに想いを馳せた。


「なんでも、見事な緑色らしいな! ステファンよ、淡水性であるならば、いつかは会えるやもしれぬぞ」

「想像しただけでゾクゾクするよ。球状なんて究極の対称性の権化じゃないか……! ぼくも素直に負けを認めるしかない」

「よし! そうと決まればアイスランドまでの行き方を考慮せねば――」

「あ、待って待って」


 思考が飛びがちな友人を、引き止めるようにして声をかけた。ユドくんたちは不満そうに鞭毛を揺らしている。


「どうしたのだ」

「いいんだよ、想像するだけで。だって会っても仕方がないから」

「何故だ? この世に不可能など無いぞ」

「会ってもその美しさを真に堪能できないと思うんだよね」


 ステファンは諦観じみたため息を吐く。未だにわけがわからなそうにしているEudorina属の友人を見上げて、教えてやった。


「アイスランドのマリモって大体直径12cmくらいの大きさになるらしいね」

「うむ? それがどうし――」

「ぼくは直径20μmミクロンなんだけど」

「む、む」


 ミクロンとはミクロメーター、メートルにして0.000001である。直径0.12mのマリモは、つまりステファンの6000倍は大きいのである。一方、ユドくんたちはひとつひとつの細胞がステファンと同等の大きさだが、群体である分だけ、囲いのゼラチンまでを込めて4~5倍大きい。ついでに言うと、ユドくんたちが何かと対抗心を燃やしているVolvox属のヴォルたちは直径250ミクロンの群体である。

 この大きさ比較で言って――いかほど遠くから眺めれば、毬藻の全体を愛でることができるだろうか。

 これを順を追って説明してやると、ユドくんたちは一気に大人しくなった。


「何か……すまぬ」

「謝らなくてもいいよ。それにしてもマリモって人間に愛されるあまり、天然記念物に指定されたり、水槽で飼われたりするらしいね。水槽かぁ……楽そうな住処だよね」

「いや。それは違うぞ、ステファン。藻にとって、水槽とは必ずしも楽な一生を約束する物ではない!」

「そうなの?」


 好奇心をくすぐられたステファンは、続きを話すようにユドくんたちを促した。

毬藻。彼らも緑藻なのでした。

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