05.おうちに帰ろう
正午を過ぎた頃、水たまりの水量が減りつつあるのは明白だった。
うっかり帰れなくなる前にステファンとユドくんたちは新しいお友達ことシアノちゃんと別れて、移動した。
「シアノちゃん、さびしそうだったね」
「うむ……また会えるといいのだが」
うねる一本の筋のようなほっそりとした道を通りながら、彼らはその日を振り返る。
また会えるかどうかは実際のところ、謎だ。何せここは無限の世界。一度会えたからと言って二度目があるとは限らない。
それに、水たまりは日々形を変える。交わりは普遍的ではなく、流動的なものなのだ。
「ぼくらと友達になれたんだから、きっとまた新しい友達ができるでしょ。心配いらないよ」
と答えつつもステファンも心中ではそれなりに気にかけていた。湖から来たと言ったシアノちゃんは、とても悲しそうだったから。
「はて、彼女からは話しかけるなオーラが出ているのではないか?」
「でもぼくらには自分から話しかけてきたよ」
「きっと我々とステファンがあまりに楽しそうにしていたからだな!」
そうだったっけ、とステファンはその時を思い返す。どちらかと言うと論争していた気がする。
「やかましいから注意しに来たのかも」
「仲良くなりたいがための口実にしか聴こえぬな。やかましくとも、他の者はシカトできていたぞ?」
「まあそうだね」
そろそろ水路が終点に辿り着く。それに従い、ユドくんたちの泳ぐペースがのんびりとなってきた。
「でも、シアノちゃんの故郷の湖ってどこだろうね。マンロー? ランカスター? それともまさか……ヒューロン湖!?」
ステファンは疑問を口にした。すかさずユドくんたちが食いつく。
「五大湖出身だと!? そんな大手筋のお嬢様と我々は知り合えたのか!」
「あくまで可能性の話だよ。ヒューロンなんていくらなんでも遠すぎるよね……」
「わからぬぞ。藍藻の丈夫さであれば、長旅にも耐えられよう」
「う~ん」
「広大な水域に一度くらいは行ってみたいものだ」
ユドくんたちは、憧れの感情が滲み出る呟きを発した。
「ぼくはお断りだよ。食われたり流されたり障害物にぶつかったり――きっとカオス空間だ。我が家が一番だと思うね」
ちょうどその時、彼らは元居た水たまりに戻れた。ユドくんたちは連れ去った時の横暴さとは逆に、丁寧にステファンを持ち場に帰す。そうして鞭毛を用いて、すいっと離れた。
「たまに冒険して帰ってくれば、我が家がいつもより素晴らしく感じるのだ。そうであろう? しかも我らは、もしかしたら帰れないかもしれないという、危険を乗り越えた!」
「ユドくんたちのくせにいいこと言ってるんじゃないよ」
得意げに震える緑藻の群体に向けて、ステファンはふんと軽く笑った。