03.おともだちを増やそう
「す……すぴ……」
ユドくんたちがよくわからない音を発している。
「Spirogyra?」
「Spirulinaよ」
どうやらユドくんたちは青緑の君の属を言い当てようとしていたらしい。
「では、スピル殿とでも呼んでよいか」
「もっさりしてて嫌よ。ワタシのことはシアノちゃんとでも呼びなさい」
「シアノ……Cyanobacteria、つまり藍藻の総称だね」
そこでステファンも会話に参加した。
藍藻は藻の中でも最古の分類といわれている。光合成のできる細菌、その生態系は多彩に渡り、さまざまな生物と共生している。地球で藍藻の住んでいない地域はきっと無いのではないかと疑われるほどだ。
「そうだけど。あなたたち、よそからきたのかしら」
「うむ! 我々は隣の水たまりから渡って来たのだ」
「ぼくは拉致されたんだけどね。えっと、ぼくはStephanodiscus属のステファンで、こっちはEudorina属のユドくんたちだよ」
「よろしく頼む!」
青緑のコイルはねぶむようにゆらゆら揺れている。
「ふうん。なんでわざわざ家から出るわけ?」
よろしくねの返事をすっ飛ばして、シアノちゃんは踏み入った質問をした。随分と刺々しい言い方だな、とステファンはこっそり思う。
「新天地を求めていたのだ。やはり冒険はいいな、こうして新しい出会いもある。この水たまり、暖かくて我々好みだ」
「じゃあ移り住めばいいよ。ぼくは帰らなきゃ」
「つれないな、友よ」
「だって暑いのダメなんだ」
「そこをなんとか」
「新しい友達を作れば万事解決でしょ?」
「それは……正論だ。でもさみしい」
ステファンを絡めたゼラチンから、16の細胞たちの嘆きの振動が伝わってきた。
いやいや、しんみりなんてしてやれない。この振動で大事な被殻が破れでもしたら、どうしてくれよう。珪藻のシリカ(二酸化珪素)でできた殻の崩壊は、生死に関わる問題だ。
「こんな水たまりがいいの?」
唐突にシアノちゃんが悲しげに訊ねた。
何か放っておけない感じだ。ステファンは思わず訊き返した。
「どうしたんだい。こんな水たまりでも、家でしょ」
「ワタシ……元々は湖に住んでたの」
答えもやはり悲しげだった。