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23.勢いを考える

 微生物の世界は立体的であり、際限なく広いのである。


「ぎゃ――――!」


 ユドくんたちが無規則に転がりながら叫んでいた。

 いつもならここで「うるさいよ! そんなに振動してたらぼくが振り落とされる!」の叱責くらいはしているステファンだが、今度ばかりは一緒になって叫んでいる。


「速いハヤイはやいいいいい」


 文句を垂らしても、それはすぐに水中に四散していった。


「これが水の位置エネルギー!? 運動エネルギーってやつだね?」

「そ、そうなのか、ステファン!」

「そんな気がするよ!」


 海抜高度の差から発生する慣性を利用して、より低い位置にあるはずのダグラス湖に自然と流れていくはずだった。その狙いが的中したのかはわからないが、まだ一番低い位置まで流れ着いていないのはわかる。

 試みが成功したかどうかは、流れ終われば自ずと知れるだろう。


 ――ただし、そこに至るまでにひとつの弊害があった。


 勢いがつきすぎてしまったのである。

 物理学に疎いステファンでも、なんとなく知っている。何かが高い位置から低い位置へ落ちる時、運動エネルギーが発生する。それは最低の位置に至れば最高値に達するものだ。


「エネルギーは発散しないと……増え続けたら取り返しのつかないことになるかも……!」

「どうやって発散すればいいのだ? 我々の16の細胞を爆散させろとでも言うまいな」

「そんな残酷な結果は絶対イヤだよ!?」

「いや待て、このまま何かに激突すればどのみち危険だ。だったら柔軟性のある部分をわざと引き裂かせて、核たる部分を守った方が最善ではないか。我々は16の細胞がそれぞれ新たなコロニーを作ればいいし、おぬしも助かる可能性が上がる」

「う、うーん。もっともそうな話だけど」


 ぐるぐると360度回り続ける世界の中で、ステファンは考え込んだ。

 たとえるならば――人間が移動に使う、車という鉄の箱。優れた安全性を誇る車は、衝突事故の際にぐしゃりと前後の形を崩すとか。崩れた部分が衝撃を吸収するため人間が乗っている部分はほとんど損害を受けない、という原理だった気がする。

 ユドくんたちの提案も本質的にそれと似ているのだろうか。


「でも却下だね! 16方向に分散したら、ぼくがくっついているこのゼラチンも破れるでしょ。君たち、ぼくが移動能力を持ってないことを忘れていないかい。家に帰れなくなるのは困るよ」

「安心するがいい、16の細胞全てに鞭毛がついているぞ! ゼラチンが破れても、どれかひとつの細胞と共にあれば問題ない。責任を持って我々がおぬしを家まで送り届けよう」

「ならいいけど…………」


 ステファンは納得しきれずに曖昧に答えた。

 勿論自分が一番かわいいし、この美しい二酸化珪素の細胞壁がひび割れることに比べれば、ほかの結果の方が受け入れやすいのだが。


(ユドくんたちのアイデンティティとも呼ぶべき立体的構造が損なわれるのももったいないような……)


 なんてことを思っていた隙に。

 勢いが頂点に達した。効果音で表すなら「ばしゃーん!」だ。

 激突する対象が無かったのか、落ちた水量が周りの生物やデブリを押し退けたのか。いずれにせよ、幸いだった。

 直後、流れる勢いが嘘みたいに弱まっていた。


「つ、着いたのか?」

「っぽいね。ところでさあ」

「む。どうした、ステファン」

「シアノちゃんと小ヴォルがさっきから居ないよね――もしかして、はぐれた?」

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