15.キャッチ・アンド・リリースについて
こちらの話を聞き終えたシアノちゃんは、美しい青緑のコイルをぐるぐる回していた。
ステファンはなんとなくこの動作から「あ、きっと退屈なんだな」と相手の心中を察した。
やがてひとつの感想が提示された。
「ばっかじゃないの」
シアノちゃんは、抑揚のない声でそう言い放った。
「ぬ……おかしいな。ステファンよ、我らの親切心が空回ったように思えるぞ」
自信なさげに振動し出した、16の細胞から成る緑藻の群体。それらを囲うゼラチンにくっついているステファンには、振動が直に伝わってくる。
「ちょっと。このくらいで落ち込まないでよ、ユドくんたち。なんか拒絶されてるのとは違う気がするし。そうでしょ、シアノちゃん?」
「……別に、わざわざ忠告しに探しに来てくれたことを迷惑だなんて言ってないわよ」
「そうだね言ってないね、っていうか流石のぼくもそこまで言われたら傷付くしかないね」
「で、では何がいけないのだ! ばかと罵られる覚えは無いぞ!?」
ユドくんたちの叫びに、シアノちゃんは一瞬だけ怯んだようだった。そしてすぐに気を取り直したように、ずいっと間合いを詰める。
「あのね」
気圧されたステファンとユドくんたちは、とりあえず「はい」と答えた。
「スピルリナ、という人間が名付けた栄養剤の原料はね――」
間を置いてから、シアノちゃんは続けた。
「実はSpirulina属じゃなくてArthrospira属の藍藻なのよ」
えっ、とステファンとユドくんたちは異口同音に驚きの声を漏らした。
ではSpirulina属のシアノちゃんは栄養剤の材料にならないと言うのか。
「そうなのか!?」
「だとすると紛らわしいね、まったく」
「そうなのよ。だから人間たちの採集はアタシとは関係ないの」
なるほどー、と安堵したらしいユドくんたちの横で、ステファンは一思案した。
――考えが甘いのではないか?
人間の採集の手順は、何もそこまで丁寧ではない。
そう、微生物は魚や鳥ではないのだ。藻を採集する際にサンプルの中にお呼びじゃなかった種類が混じっていても、人間はわざわざそれらを元居た場所に戻してあげたりはしないはずだ。
たとえ誤って捕まえたとしても、裸眼で見えないような生命体の為にそんな手間をかけるとは考えにくい。
「ねえ、遠目に……っていうか人間の視力からだとさ、藍藻も緑藻も大して変わらないんじゃないの。一様に、どろっとしてて緑っぽく見えるなら、採集対象だと思うよ」
えっ、と今度はシアノちゃんが声を上げる番だった。
「結局は危ないことに変わりないのだな! うむ、どうだ、一緒に逃げる気になったか」
フハハハ、とユドくんたちは豪快に笑い出した。
警告しに来ただけなのに、逃げるなんて無責任な提案しちゃダメでしょ――とステファンが突っ込もうとしたら、シアノちゃんの震える声がそれを遮った。
「逃げるのもいいかも……」
まるでこちらを当てにしているかのような身の乗り出しよう。
「……君、マジで言ってんの?」




