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様々なドラゴン~万龍の世界で龍を食う~  作者: 住之江京


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34皿目【エヴァレットの多世界ドラゴン】

 平行世界、世界線、多世界解釈、まぁ何でもいいんだが、「スピンオフや別タイトルで、同じキャラがいて同じ基本設定を持つ異なるルートに進んだ世界を舞台とする」という方法が陳腐化したことは、何もデメリットばかりではなかったのだ、と思う。

 「何もデメリットばかりではなかった」という表現は、「主たる部分がデメリットであった」と話者ないし筆者が感じていることを表す言い方なのだろうが、世の中にはこう明言しなければ理解できない者が一定数いるらしいので、話の腰を折りながらも一応述べておく。


 陳腐化という言葉が悪ければ、普及と言い換えてもいいし、「市民権を得た」だの「前提知識の解説の手間が省けた」だのと言っても構わない。

 物語Aと、物語Aの登場人物Xの少年期を描いた物語Bがあるという前提で、物語Aで登場人物Xと登場人物Yが結婚していたとして、物語Bのラブコメ展開が必ずしもXとYの恋愛関係成立に至る必要はない。XはサブヒロインのZと結ばれても良いし、Yはポッと出のWに寝取られても良い。

 それどころか、物語Bの中で、Yが命を落としたって良い。


 そんな展開を、どんな脚本家だって、当たり前に思い付く。展開可能性の拡大だ。それが、多世界の陳腐化による最大のメリットだろう。


 勿論、物語Aと物語Bが完全に連続した世界の話であっても、同じことはできる。

 AとBの間の空白期間で二組のカップルが破局を迎え、XとYが元の鞘に収まっても良い。

 Bで死んだYと、Aに生きるYは、同名で同じ人種の別人であり、死んだB‐Yの面影を追ったXがA‐Yと出会って云々、等という展開にしても良い。

 これらもまた陳腐化された手法であり、使用した所で、かつて程の反発は受けまい。しかしながら、多世界の利点はそこに留まらない。


 読者はこう考えることが出来るのだ。

 「俺の気に食わない設定は、よく似た世界のよく似た別人の話だ」と。


 「選択が分かれた時点で世界が分岐する」という解釈は、現代では鼻で笑われるジョークとしか見られないが、実際のところは「選択が分かれた時点で低次元座標では同値を持つ世界と他の世界のズレが起こり、世界を識別できるようになる」という程度の話であって、再び同値を取ることがあれば分岐した世界は収束する。

 この辺りを理解していない中次元存在が、再現のない宇宙の分岐を何か重要な問題と考え、世界を収束させようとすることもあるが、そこで最も揃えるのが容易な値は「無」であるから、彼らは適当な世界を無に帰そうとする。

 樹状世界論も世界線論もやってることは変わらないんだけど、世界線論を低次元モデルで表したことが、この馬鹿げた勘違いの発端なんだろうな。

 眼前に立ち塞がる、緑に輝く八つ首の龍を見て、そんなことを考える。

「……我は対枝龍【エヴァレットの多世界ドラゴン】。話を進める上でややこしくなる設定をなかったことにしたくなった場合のため、事前に伏線という建前で言い訳しておく龍なり……」

 八つ首の一つが名乗りを挙げた。

「……借金オチだの……学園シナリオだの……分断展開だの……」

「……その日の気軽に思い付きで適当な話を挟みづらくなる設定を、書き直しという手管を使わず、IF展開として脇に置く……」

「……あわよくば完全になかったことにして、IF展開の方を正史にする……」

「……それに正当性を与える龍なり……」

 それぞれの首は、思い思いに分割した台詞を口にする。

 俺には【エヴァレットの多世界ドラゴン】の語る内容はまるで理解できなかったが、二つ名持ちの最上位龍種は概ね人智の及びも付かない次元で思考し、物を言う。当のドラゴンにもよく言われることだが、人の身でそんなことを気にしても仕方がない。

 俺は龍殺しの(キャット)(・オブ・)散鞭(ナインテイル)で【エヴァレットの多世界ドラゴン】の頭を弾き破り、一本一本枝打ちの要領で首を落とし、それぞれ骨に沿って三枚におろして血を洗い、四本分は網焼きにして、残りの四本は売却用の干物にした。

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