2皿目【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】
「……我は【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】。シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る、今世紀最高の龍なり」
霧深い峡谷に、厳かとすら言える、低く、腹に響く声が反響する。
白一色に包まれた視界では薄らとしか確認できないが、そこには確かに【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】が存在した。
ドラゴンを狩って生計を立てるドラゴンハンターの俺にとっては、霧の中のドラゴンが【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】であることを判別することなど、造作もないことと言える。相手が自分で名乗ってるしな。
ドラゴンの巣でドラゴンと遭遇する。ドラゴンハンターにとっては当たり前の状況、当たり前の光景が、そうではない同行者の目には新鮮に映るらしい。
今回の狩りに同行した、元・行き倒れエルフ、現・助手エルフのゲッカは語る。
「これが生きたドラゴンですか。私、生まれて初めて見ま……見……見えませんね、これ」
目からサーチライトを放つ魔法は傍から見ると大変不気味だが、その甲斐なく【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】の姿を捉えることはできないらしい。霧の中でライト点けるのは、どちらかと言えば対向者から見つけてもらう為だしな。
「でもこいつら、見た目は本当にシャレオツなんだぞ」
「グラムさん、どうやって確かめたんですか。こんな霧の中で」
訝しげな顔でこちらを見返すゲッカは、未だ目からライトを放出しており、大変眩しい。俺は手でその両目を覆い、尚も指の隙間から漏れてくる光に顔をしかめて答える。
「そりゃお前、霧の中では誰も確かめてねえよ。殺して霧から引きずり出したんだ」
なるほど、とゲッカは頷き、ライトの帯が上下に揺れた。
そこへ【シャレオツなグラフィックと超見辛いゲーム画面が光る今世紀最高のドラゴン】の声が降る。
「……矮小なる人の子よ、我を弑すというか。我はスマホとは思えないクォリティのグラフィックで無課金でも十分遊べる★★★★★の存在ぞ」
馬鹿にするというよりは、呆れを含んだ声。
その言葉に、ゲッカは首を傾げた。
「グラフィックが売りなのに姿が見えないというのは、良くてもマイナス1して★★★★☆ではないでしょうか? 少なくとも今世紀最高は言い過ぎですよね」
「ああ。それにな、本当に無課金で遊べるドラゴンは、すぐにサービス停止になるんだよ」
目からのサーチライトを斜めに向ける助手へ、俺は鼻で笑って答えた。
「……【JW480SY2】と入力すればガチャ一回無料であるとも知らずに、愚かなものよ」
「へっ、糞UIでよく言うぜ。招待コードシステムつけるなら、最低限入力欄にコピペで貼れるようにしとくんだな!」
この段階で、知恵ある魔獣は言葉を捨てた。
怒りの咆哮と共に霧が揺れ、判子絵の如く綺麗に揃えられた爪が振り下ろされ、俺はゲッカを抱えて斜め後ろへ飛ぶ。地面が抉れ、砂礫が弾ける。それが狩る者と抗う獲物の、死闘のゴングとなった。