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様々なドラゴン~万龍の世界で龍を食う~  作者: 住之江京


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14皿目【ドラマCD付き特装版ドラゴン】

 世の中には、【ドラマCD付き特装版ドラゴン】、という龍がいる。

「ドラマCDが付いてるんですか?」

「はあ? なんでドラゴンにCDが付いてるんだよ」

 トボけたことを言う助手のゲッカに呆れた顔を返すと、しかめっ面が返ってきた。

「じゃあどうして、そんな名前なんですか」

 まあ、気になるのも無理はない。俺も初めて聞いた時は、疑問に思ったもんなぁ。

 後身を育てるのも先人の役目だ、勿体ぶりもせず、素直に教えることとした。

「発見者の名前に因んで付けたんだよ。彗星でも何でも、よくある話だろ」

「へえ、何て名前の人だったんです?」

「そのまんまだよ。ドラマCD付き特装版伯爵っていうんだけどな」

「……その伯爵には、ドラマCDが付いてるんですか?」

「伯爵にドラマCDって意味不明だろ。常識で考えろよ」

 何故だか妙に睨まれた。


***


 世の中には、ドラマCD付き特装版、という文化があります。

 それは時としてドラマCD付き限定版となることもありますが、大抵はドラマCDなし通常版と同時に発売されます。

 ドラマCD付き特装版は旧来、少女漫画や少女小説の文化という印象が強かったのですが、昨今ではライトノベルや青年向けコミックス、ゲーム等にも多く見られるものです。このドラマCD付き特装版なのですが、現在までの半生で、私自身は一度も購入したことがありません。生まれてからの十何年かは外との交流の少ないエルフの村で暮らしてましたし、その後の十何年かはそんな余裕もありませんでしたし。ようやくお小遣いを持てる身分になった最近でも、特に買おうという気にならないのですよね。

 ドラゴンハンターの助手をやるようになってから、本は三日に一冊ほどのペースで買うようになりました。ドラマCDについても、別に「ドラマCD」というものに抵抗があるわけでもないんですが、「ドラマCD付き特装版」には、どうもあまり食指が動かないと言いますか……これが好きなシリーズの本で、ドラマCDとは別売りだったら、たぶん本もCDも両方とも買うんですけど。

 まず、近所の本屋さんに売っていないというのがあるんですよね。といって、わざわざ大きな書店に出向くにも私案外忙しいですし、思い立ってから入手までに時間のかかる通販も性に合わないのです。

 何より、一度通常版を買ってから特装版を見付けても、既に持っている本には手が伸びないんですよねえ。

 でも、「声がつく」のは正直ピンとこないんですが、「書き下ろしオリジナルストーリー」というのは魅力的です。一応うちにも中古のCDラジカセが一台あるので、興味の惹かれるものがあれば、一度買ってみても良いかもしれないですね。


 狩りの帰り道、二人でランチ分の【ドラマCD付き特装版ドラゴン】を食べ終えた頃、そんな旨の話をグラムさんにした所、

「あーわかるわかる」

 と大変いい加減な返答がありました。

「あれだろ、【うなぎドラゴン】の蒲焼についてる【タレドラゴン】みたいなやつだろ」

「何ですかその美味しそうなの。今度獲りにいきましょうよ!! いえ、今すぐ行きましょう! ハバハバ!!」

「おう、また今度な。それより俺の話聞けよ」

「ひょっといば()理れふねえ、涎がとばりばへん」

「聞けよ」

 それにしても美味しそうな名前のドラゴンがいるものですね。エルフはベジタリアンなのでウナギを食べるなんて野蛮な風習はありませんが、ウナギって東方のドラゴンと形が似てますし、美味しそうだなって思ってたんですよ。

「世の中には【うなぎドラゴン】の蒲焼で旨いのは、【うなぎドラゴン】じゃなくて【タレドラゴン】の味だっていう連中がいるんだよ」

「頭おかしいんじゃないですかね、そいつら」

 涎を飲み下して相槌を打ちます。【うなぎドラゴン】、まだ食べたことないですけど。

「まあ、実際【うなぎドラゴン】は味付けなんかしなくても旨いんだよな。なら【うなぎドラゴン】と【タレドラゴン】を別売りにすれば良いかと言えば、そうもいかない」

「どうしてです?」

「【タレドラゴン】だけ別買いだと、余ってもそう度々【うなぎドラゴン】なんて食べないし、それならわざわざ【タレドラゴン】を買わなくても【醤油ドラゴン】でいいかって気分になるかもしれない」

「あー、【うなぎドラゴン】に【醤油ドラゴン】って、【タレドラゴン】より見劣りするかもしれませんね」

 私【うなぎドラゴン】も【タレドラゴン】も食べたことないですけど、今、私の舌の上で想像の【うなぎドラゴン】が踊っていますので、大体グラムさんの気持ちはわかります。何だか疑念のこもったような目線を向けられている気もしますが、大丈夫、私はわかっていますよ、と慈愛の微笑を投げ返しました。

 グラムさんは釈然としないような表情で話を続けます。

「【うなぎドラゴン】を最大限に活かす【タレドラゴン】は、【うなぎドラゴン】とセットで売る方が良い気もするんだが、人間、時には白焼きにしたいこともあるし、お吸い物だって捨てがたい」

「ちらし寿司もいいですね! 【卵ドラゴン】焼きに入れるのも美味しそうですし、ああっ、パイ包焼きにするのも素敵です!!」

「いや、あんた【うなぎドラゴン】食ったことないんだよな?」

「近日中に食べましょうね!!」

 私が期待に胸を膨らませながら提案すると、グラムさんは「おう、そうだな」と極めておざなりな返事を投げ、話はそこで途切れてしまいました。

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