12皿目【マックドラゴン】
【マックドラゴン】で隣の席の女子高生が、
「この前、拾った求人誌読んでんだけどさ、社員退職のため急募って記事があったわけよ」
「まず拾うなし。で?」
「募集職種がさ、事務、総務、経理、営業、工員、Webデザイナー、幹部候補」
「やめすぎでしょ」
「当方社長」
「ボーカルかよ」
なんて会話をしている。女子高生も暇なんだな、と意識の外に他人事を流し、目の前のストローに集中する。
俺とゲッカは【マックドラゴン】で、新発売の《さくらんぼシェイクブレス》を飲んでいた。
「なんか損した気分になりますねー、これ」
飯を食っている時は大概上機嫌なゲッカだが、この《さくらんぼシェイクブレス》はお気に召さなかったらしい。
「口に合わないか?」
「いえいえ……嫌いな味ではないんですが、好きでもないですし、何というか、こう、お金を出した割りには原価率がといいますか」
【マックドラゴン】はドラゴンの中でも比較的危険度が低く、一般人でもブレスの残滓や糞、剥がれた鱗程度なら手に入れることができる。これを商品として販売しているのが、マクドラと呼ばれる営利組織だ。普段ドラゴンハンターの助手として命懸けでドラゴンを狩っているゲッカが、たかだか拾い物に金を出すのが気に食わないというのは、まあわからんでもないが。
「飯屋ってのはな、場に金を払うもんだ」
休む場、話す場、高級店ならそこに入ること自体が価値を持つ。俺はそう言って、隣の席の女子高生に視線を向ける。ゲッカも釣られてそちらを向いた。【マックドラゴン】で隣の席の女子高生らは俺達の視線に気付くこともなく、
「拾った求人誌に、コンビニの募集があったんだけどさ」
「熟読しすぎ。で?」
「週五勤でも週六勤でも自由に選べます!」
「自由度低すぎでしょ」
「オープンワールドにしろっての」
「いや店には居ろし」
等とだらだら言い合っている。
その様子を目にしたゲッカは、何事か一人で頷くと、こちらの耳元に口を寄せ、
「こいつら相当人生無駄にしてますねえ」
と囁いた。




