表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

第十七話ー変わらない日常、変わる何かー

 二人でいる時間は、瞬く間に過ぎていった。二年生の間は、休みの度にどっちかが誘って、遊びに行くか勉強会か。家にいると、大抵向後さんが乱入してきて、結局いつものドタバタ騒ぎ。

「どうでもいいんだけどさー、二人とも私の前でいちゃつきすぎじゃない?まー、私には関係ないんだけどねー?」

 俺と天音が隣同士で、向後さんはその向かいの席。毎回そんな位置関係だから、多少皮肉を言われるのは覚悟していた。

「へっへーん、羨ましいでしょ?勇吾の事、一日だけなら貸してあげてもいいよ?」

「私なら、その一日の間に結婚して、一生返さないよ?それでもいいなら有り難く」

 毎回繰り返されるのは、そんな会話。前から思っていたけどこの二人、俺をペットか何かと勘違いしてないか……?

「えー、ペットならもっと可愛げあるよ?どっちかって言うと、家庭用品?一家に一台!みたいな」

「料理以外の家事は一通り出来るし、そうだねー。ユーゴ、私の家で執事にでもならない?それならあーちゃんと付き合ったまま、私とも一緒にいられるよ!」

「……断る。毎日おもちゃ扱いされたあげく、ぼろ雑巾になる未来しか想像できない」

 三人の関係は、変わらない。積み上げてきた年月は、積み重ねてきた関係は、そう簡単に崩れ去る物ではなかったらしい。結局、怖がっていたのは俺だけだったのか……。


 高校三年になると、目に見えて遊ぶ時間は削られていった。進学なり就職なり、進路の事を考える時期が差し迫っていたから。俺と天音は進学、向後さんは父親がいる会社に就職、と考えているらしい。そういえばあのおじさん、広告代理店にいるって言ってたっけ……?

「うん、何回か一緒に仕事もしたよ?クライアントがその会社だったって、後から知る事ばっかりだったけど。お父さんが人事に話を通してくれて、後は書類と面接が通れば内定、って形式なんだって」

「いいなー、しーちゃん。私なんか、行きたい大学が妙にレベル高くて……。ねえ勇吾―、たまには私も遊びたいよー」

 中間テストに向けた勉強会。相変わらず俺は二人の教師役で、今日はおまけもくっついてきた。それなら、と今日は場所を変えて、学校の図書館でやってるわけだが……。

「あー、そこのバカップルー?いちゃつくのはいいけど、時と場所を考えてやるように。というか、私の前でいちゃつく奴は死刑だ、極刑だー!」

 何故いる、我らが担任様よ……。っていうか、クラスのほぼ全員が勢揃い。確か純也が俺にも家庭教師を、とせがんできて、更に数人が便乗したから、場所を変えたんだよな?自宅に十数人も集まると、流石に許容要領を超えるから。騒がしくしたら追い出されるから、と町の図書館も選択肢の外。休日でも使える場所という事で、試験前限定で開いている学校の図書館に来た訳だが。

「日曜の団欒に邪魔する程、私も無神経じゃないぞ?っていうかそんな場所に行ったら、独り身なのが余計に辛くなるだろうが。給料日前、金欠で無料の遊び場って言えば学校位しか無い大人の苦労が分かるか、日向―!」

「っていうか、給料日って昨日じゃん。ヒナせんせー、日本語としては間違ってないけど、大人としてそれはどうなのさ」

「……いやー、宵越しのお金ってさ、残したら恥じゃない?」

 それは江戸時代の考えだ。現代社会においてそれは通用しない事を、いい加減学んでほしいけど、無理だろうな……。

「いやー、学年トップクラスに授業してもらえるなんて、夢みたいっしょ。頼りにしてるっすよ、組長!」

 去年の文化祭以降、何かと頼まれ事をされる機会が増えた。鬼と呼ばれた文化祭実行委員長との大立ち回りが、いつの間にか学園全体に知れ渡っていたせいで。まあ、それ以前から何処かのバカが、生徒会長との話し合い―――という名の脅迫―――の件を、微妙な尾ひれ付で触れ回っていた事も影響したらしい。

「あれ、親分じゃなかったっけ?今年の生徒会役員、全員勇吾の知り合いだもん。面倒な小細工無しで動かせる、って意味で」

 ……何かこう、クラス内での立ち位置が微妙な物に。というか、そのせいか。どうにもここ数日、生徒会絡みの厄介事が増えてきたのは。俺の知り合いっていうか、元々は中学時代の後輩ばかりが、生徒会入りしたせいなんだけど。それと天音さん、それはフォローではなく、追い打ちです。

「純也、そこの騒がしいの全員、ここからつまみ出せ……。それと先生、大人しく引率の役割をこなせないなら、俺の口が滑りますよ?」

「な、なんだよ……。言っておくけど、私にはやましい所は無いぞ?」

 職員室にほぼ毎日行っていたせいか、どうでもいい事まで耳に入った。いつか、何かあった時の為、と覚えておいて正解だったかな。……おかげで、また一つ新しい噂が流れる事になりそうだけど。

「去年の修学旅行、先生だけ、宿泊費に関して、自腹を切らされたそうですね?何でも、教員相手の接待で飲み過ぎて、旅館の人に宴会場から放り出されたとか。しかも泥酔状態で間違って入った部屋が、他の―――」

「分かった、大人しくする。お願いだから言うな!それ以上は言うな!」

「ヒナせんせー、あんたって大人は……。てか勇吾、何でそんなん知ってるんだ?」

「帰り際、運転手さんから愚痴られてさ。担任様が頼りにならないせいで、諸々の仕切り、俺が全部やらされたから、仲良くなっちゃって」

 運転手から聞いたのは、後半部分だけで、前半は職員室で聞いた話に推測を入れた程度だった。この狼狽え方を見ると、多分全部本当の話なんだろうな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ