第十二話ー舞台裏、そしてー
そしてとうとう、学園祭の初日を迎えた。この日まで結局、通しての練習は一度も出来ていない。それどころか、台本のラストが書かれる事のないままで、ラストシーンは不明瞭の状態だ。こんなんで成功するのか……?
「日向、ちょっといい?」
最後のリハーサル直前、監督からお呼びがかかった。さっきまで教室の片隅でごちゃごちゃとやっていたから、てっきり台本の仕上げをしていたと思ったけど。
「ごめんなさい!実は、ラストが思うように書けなくて……。だから、この舞台の結末は、日向に決めてほしいの」
……はい?それってつまり、いつだったか話してたアドリブ案って事か?他の場面に逐次修正を入れていたから、書きあがっていたものと思っていた。それでも、渡井さんを責める事は出来ない。たった数人での劇とはいえ、初めて監督する舞台。それだけならまだしも、喫茶店の準備も加わった大仕事だったんだから。いつも通りの部活に日々の授業、そして文化祭の準備。俺も実行委員の仕事があったから、クラスの準備にも殆ど加われなかったんだっけ。
「分かった、それならラストは好きにやらせてもらう。そうだ、どんな結果になっても、これはフィクションです、って逃げていいんだよな?」
「天音さん、これで良かったの?」
仕上がっていた、最後の一ページ。私はそれを後ろ手に隠して、教室の隅にいた。日向の位置からだと、多分私は見えなかっただろうけど。
「うん。ごめんね、私の我がままで、舞台を台無しにしちゃって。渡井さんの台本が気に入らない、って事じゃないんだけど。この設定なら、私達は普段のままがいいんだ」
この数日、ずっと考えていた。どうやって日向から話を聞くか。私の記憶から抜け落ちている事を、どんな方法で聞くのかを。
「ううん、それは気にしないけど。私としても、面白い劇を見られれば十分だから。それにね、嬉しいんだ、そうやって頼ってくれた事が。大丈夫って言うばかりだった天音さんが、ってね。その代り、一世一代の大舞台にしてよね!」
単純な話をすれば、これは舞台の私物化だ。本当の私には言えない事でも、舞台の上なら。作り物としての私なら、口に出せると思ったから。美咲ちゃんに頼んだのは、ラストのシーンを私達に任せる事。どんな結末にするのか、それをその場で作り上げる事だった。それを台本が書きあがらなかった、という事にしたのは、多分美咲ちゃんの優しさなんだと思う。
もう一度、ここから始めよう。過去にあった、未来に繋がるはずの物語を。これくらいの優しい嘘なら、神様だって許してくれるから。