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第一話ープロローグー

 春、世間一般様では、出会いと別れの季節と呼ばれる頃。例に漏れず、高校生の俺達にとっても新しい出会いという物は経験する事になる。卒業式での、お世話になった先輩との別れ。その後に待つ、後輩という名の新しい出会い。同学年に関して言えば、クラス替えでの良く知らない相手との出会い、とか。

「よーし、全員揃ったなー。私がこれから二年間、あんたらの担任になる日向明菜だー。知っての通り、この学園では三年への進級時、クラス替えをしない。去年も見た顔は何人かいるけど、もう一度同じ話をするぞ。こらそこ、退屈でも寝るな!日向、あんた私と同じ苗字っていうだけで、職員室でも隠し子疑惑が出て、こっちは大変なんだぞ?少しは私に気を使え!」

 古典的な、チョーク投げ攻撃。それを見事に、寝ようとしていた俺の頭頂部にクリーンヒットさせる。漢字は同じだけど、読みが違うだろ、と何度言っても理解してくれない。困った国語教師だ。

「私は先生だ。『先』に『生』きる、って書くが、正直あんたらと比べてもほんの十年早く生まれただけの、単なる人生の先輩程度。でもな、そんな私でも、これだけは自信を持って言える事がある」

 日向先生が息を飲み、クラス全員の反応を見た。真剣に聞く生徒もいれば、去年と同じ話かー、と呆れた顔の奴もいる。その十人十色の反応を見た先生は、ニカっと笑顔を浮かべ―――。

「私は、あんたらの未来に責任を持てない。それは、あんたら自身の所有物だから。退屈な物にしたくないなら、どんな些細な事でもいい、たった一つでいいから、何か夢を持て。それがあんたら子供の義務で、仕事だ。その為の手伝いなら、私は出来る範囲でしてやる。その道がどんな物か知らないけど、私が知らない道だったら、前に立って、手を引いてやる事は出来ない。でもな、後ろで支える位の事なら、いくらでも引き受けてやる。安心しろ、どんな事があっても、見捨てるような真似はしない。嫌だって言っても、この学園にいる間はずーっと世話してやるからな、覚悟しろよー」

「少し長くなったけど」、と続けて、ホームルームは終了した。今日は始業式だけで、午後はまるまる休みのような物だ。中学でもあるまいし、束縛される事はない。法律に触れる事は流石にお断りだけど、それ以外は基本自由。街へ出かけようが完全下校時刻まで居残ろうが、教師連中に追い掛け回される事はない。そのせいか、駅前のデパートやショッピングモールでは、結構有名な学校だったりする。主に、金銭的なカモとして。


「勇吾―、新学期記念って事でカラオケ大会やるんだけど、参加するかー?」

 適当に帰り支度をしていると、教室の端から呼ぶ声がした。去年から同じクラスの、木谷純也だった。人当りの良い性格の為か、学年でもそれなりに人気がある。中身はアレだけど。

「あー、俺パス。父さんが明日から単身赴任だって事で、早めに帰って来いって煩いんだ。母さんも明日から旅行に行くらしいから、たまには親孝行って事で」

「ああ、そういやお前の親父さん、かなり子煩悩、って感じだよなー。まあ、単なる親睦会みたいなもんだから、気にするな。天音さんはどうする?」

 言われて気付いた。隣の席、天音香織の姿に。幼い頃からの腐れ縁で、気付けば今年で十一年間も同クラス。人当りも良く、能天―――もとい、明るい性格から男女問わず、そこそこ人気があるらしい。アレな純也と比べれば、雲泥の差。あいつは発言内容がお花畑なせいで、女子勢からは煙たがられる場合もちょくちょくだからな……。

「どうしよっかなー……。ところで日向、おじさんもおばさんもいなくなるなら、ご飯とか大丈夫?もしピンチになったら、遠慮しないでお姉さんを頼るんだぞー?」

「誰が姉だ……。最悪カップ麺でも食べるし、昼は学食。何とかなるだろ?」

 ……なんですか、二人揃って微妙な顔をして。純也も天音も、同じような苦笑いで俺を見ていた。

「はあ……。その調子じゃ、おばさんが戻る頃には、お相撲さん体型だよ……。冗談抜きでさ、本当に危なかったら、頼ってくれていいんだよ?お父さんもお母さんも、日向なら大歓迎って感じだろうし」

 天音の家と俺の両親は、かなり仲が良い。小学校の頃はほぼ毎日一緒に遊んでいたし、十年も同じクラスだった為に、家族ぐるみの付き合いは多かったから。家も隣とまではいかないが、徒歩でも五分程度。そりゃ、毎日互いに行き来していれば、自然と仲は良くなるよな……。

「やっぱり殆ど家族じゃねえか……。世話焼きの姉に、手のかかる弟、って構図か?羨ましいぞ、こんちくしょーーー!」

 純也の渾身の叫びに、教室中が振り向く。その性癖を知っている奴は『ああ、またか』という顔をし、知らない奴は目を丸くして驚いていた。

「まあまあ……。天音さん、だったよね。私達も知らない人ばっかりだしさ、良ければ一緒にどう?用事があるって人も結構いるから、参加人数は半分位なんだけど」

「あ、うん。特にこれって用は無いんだけど。カラオケかぁ……。私、あんまり今の曲って詳しくないんだよね?」

 そういえば、天音って主に洋楽ばっかり聞いてたよな。童謡なんかは流石に知ってるけど、いわゆる流行り物の曲には比較的疎い。某国民的アイドルのグループ名を見かけた時、何の化学記号か本気で聞いてきた位だ。

「はは……。まあ、私もそんなに詳しい方じゃないけどさ。折角なんだし、仲よくしたいから。駄目、かな?」

 渡された座席表と、彼女の名前を照合してみる。確か、渡井美咲さん、だっけ?演劇部だったか同好会だったか、いつかの公演で見かけた覚えがある。

「うう、そう言われると断れないよ~。仕方ない、私も参加しようじゃあないか!それじゃ日向、またね~」

 渡井さん、一つ忠告。そいつに小動物の目で訴えると、効果は抜群だから気を付けるように。ヒラヒラと後ろ手で返事を返し、教室を出ていく。まだ四月だというのに、太陽は眩しく、長袖の制服だと軽く暑い程の陽気だった。

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