第一章⑧
「ぺっこりんちょ?」フミカはイヤホンから聞こえた言葉に反応して眉を潜めた。「ぺっこりんちょって何なのよ」
「んー?」テーブルを挟み対面に座るチカリコはチョコレートパフェを食べている。「チカリ語かにゃ? お腹ペコペコで死ぬ、くらいの意味だよ、けけけっ」
フミカとチカリコは錦景駅前に広がる地下街に繋がっている錦景第二ビルのディクシーズというファミレスにいた。二人はステーキを食べ終え、チョコレートバフェを食べていた。錦景市の午後の一時、約束の時間にヒトミはユイコと接触した。そのことはフミカのスマートフォンにインストールされているアプリケーションによって分かった。スマートフォンはイヤホンを通じて、二人の会話を伝えてくれている。チカリコはヒトミに恋のお守りをプレゼントしていた。プレゼントしたお守りには超小型盗聴器が搭載されていて、それがフミカのスマートフォンとリンクしているのだ。だから二人の嬉し恥ずかしの会話は丸聞こえってやつなのだ。
「ぺっこりんちょの意味は分かるけど、なんで唐突に彼女、その、チカリ語を使っているわけ?」フミカはチカリコを睨みながら言う。「っていうか、チカリ語って何だよ、初めて聞いたよ」
「流行っているみたいよ、」チカリコはすでにパフェの最深部まで食べてしまっている。「一年生の間で」
「は?」
「チカリ語が流行しているのだ、チカリ、チカリってな具合にね、」チカリコは口の周りをクリームで汚しながら上機嫌に言った。チカリコは甘いものが好きだ。甘いものを食べいるとチカリコの笑い方は変になる。「けけけっ」
「流行ってる? ヒトミはぺっこりんちょに微妙な反応だったよ」
「一年生の中でも、ギャルの間で流行ってるんだって」
「ギャルってなんだよ、」フミカはパフェに刺さる小枝を口に放り込む。「ギャルって」
「私結構、ギャル、好きよ」
「急に何のカミングアウト?」
「フーミンも髪を染めてみない?」
「私、黒髪以外似合わないよ、きっと」
でも姫様が茶色にせよ、と言うのなら。
私は髪を染めますけれど。
「冗談だよ、」チカリコはフミカのパフェに手を出してからニヤリと笑う。「フーミンには黒がいいよ」
「そう、っていうか、このパフェは私のパフェよ、手を出さないで、手癖の悪さは女の子だけにしてね、姫様ぁ」
「えー、フーミンのけちぃ」
そしてフミカはジンロウのスマートフォンに電話を掛ける。「もしもし、ジンロウ、二人はトリケラトプスからマクドナルドへ向かって移動中」