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恋の縁術師(the Secret Affair)  作者: 枕木悠
第二章 枕木文華の歓楽領(the Field)
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第二章⑦

「バンバン・チキチキ・バンバン♪」

 チカリコはお風呂の中でチキチキバンバンを歌っていた。結局三人でピアノ教室の先生の邸のお風呂に入り、浴槽に体を沈めていた。

「バンバン・チキチキ・バンバン♪」

 チカリコのチキチキの歌詞はあやふやだった。リホもチカリコに併せて歌ってさらにチキチキの歌詞はあやふやになった。仕舞いにはメロディまで変わって新しい歌になる。

「あ、そのメロディ、」エイコはその新しいメロディに反応した。「いい」

「へ?」リホは自分が新しい歌を歌っていたことなど知らない、という顔をしている。「何?」

 エイコはメロディを口ずさんでから言う。「これ、いいわ、このメロディ、楽しい、んふふっ」

「なんだか、よく分からないけど、」リホは笑顔を作った。「楽しいね」

「このメロディを元に曲を作りましょ」

「え?」

「明日はスタジオに入りましょ、」エイコとリホ、それからユリカとアプリコット・ゼプテンバの四人はコレクチブ・ロウテイション、というバンドを組んでいる。コレクチブ・ロウテイションはメジャーデビューはしてないけれど、錦景市界隈では比較的メジャーなロックンロールバンドだった。「早く形にしたいわ」

「・・・・・・お姫ちゃん、大丈夫?」リホはチカリコの顔を覗き込み言った。「顔がピンク色だけど」

 チカリコの顔はピンク色、というか赤かった。のぼせた、にしては早過ぎる。浴槽に入ってチキチキを歌い始めてからまだ五分も経ってない。

「平気、」チカリコは口元までお湯に沈んでぶくぶくした。そして浮上。そのままスレンダな体をエイコとリホに見せつけるように立って声を浴槽に響かせた。「私は平気だもん!」

 平気だったらそんな風に怒鳴らないでしょ?

 そう言うのはちょっと酷いことのように思えた。

 何か、あったのだろう。

 あったに違いない。

 なかったら、こんな風にお風呂には入っていない。

 由々しき問題は、お姫様の心に所在を持って騒いでいるらしい。

 昨日の流れからして、フミカちゃんのことかしら?

 それとも違うこと?

 何でしょう?

 あなたを苦しめているものは何?

 私の正直な心は、あなたを苦悩させるものを取り除きたいと思っています。

 でも。

 私はお姫様の踊り子。

 所詮、踊り子。

 術師ではなく、踊り子。

 身の程は弁えております。

 踊り子風情がむやみやたらに舞い踊っては、あなたと繋がった糸がこんがらがってしまいますので。

 ええ。

 ですので私はお姫様の命令が下るまでは踊れません。

 あなたの声で操って頂かなくては踊れません。

「・・・・・・そうね、」エイコはチカリコの顔をまっすぐに見つめていた。「お姫ちゃんは平気よね」

「ええ? どう見たって平気に見えないよ!」リホは目付きを変えて言った。エイコは忘れていた。踊り子の中で、踊り子の本分をどこかズレて認識している踊り子が存在していたこと。それがリホだってこと。「お姫ちゃん、何かあったんでしょう? 何か辛いことがあったんでしょう? 悲しいことがあったんでしょう? 話してよ、私たちはお姫ちゃんの踊り子だよ、何だって聞いてあげる、お姫ちゃんのために何だってしてあげるんだから、ね、エイちゃん!」

 エイコはちょっと、リホの真っ直ぐな、なんだろう、とにかく彼女のストレートさに、くらくらしていた。心地のいい、くらくら。リホがいい女だっていうのをエイコは再確認した。「ええ、そうよ、お姫ちゃんのためなら、私たち踊り子は何だってするわ」

「・・・・・・別にいいです、」チカリコは浴槽に体を沈めて二人に背中を向けた。「私は大丈夫」

「もぉ、お姫ちゃんってば、こっち向きなさい!」リホが吠えてチカリコを襲おうとする。「こっち向かないとキスしちゃうぞぉ!」

「別にキスしなくってもいいでしょ?」エイコはリホの肩を掴んで後ろにやって、チカリコの頭を撫でて彼女の耳元で囁いた。「難しく考えることはないんじゃないの? お姫ちゃんの心はどうしたいの?」


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