第一章⑫
「あんなに長いキス、初めてだったね、」上機嫌そうにキティは言った。「んふふ、長いキスだったね、きゃあ、ユウちゃんと長いキスをしちゃったぁ」
「……こらこら、クルクル回るなって」
上機嫌のキティはユウの前をクルクルと回りながら歩いていた。キティは幼少からバレー教室に通っていた。キティはバレリーナなのだ。だからその回転は軸が安定していてスピードがある。地下街で行き交う人たちは、クルクル回る外国人のキティを避けながら不思議そうな目で彼女のことを見ていた。ついでにキティを追いかけるユウのことも不思議そうに見ていた。
「あー、もう、キティ、いい加減にしてってばぁ」
ユウはキティの手首を強く掴んで回転を止めた。キティとは対照的にユウは不機嫌だった。
だって。
いくら縁術だからって言ってもさ。
キティと長いキスをするっていうのは。
なんていうか。
なんていうか。
釈然としないものがあるんです。
別に女の子同士のキスを見せるんだったら、チカリコに従順な三人の白拍子たちに任せればいいことだ。
彼女たちだったらユウみたいに頬を膨らませることなく頷くことだろう。
どうして今日はキティとキスしたんだろう?
僕はシノブ君のことが好きなのにキティと長いキスをしたんです。
シナリオ通りながらシノブ君はジンロウとキスをしたと思います。
なんていうか、やっぱり、釈然としません。
ちーちゃんとは主従関係にある僕は、ちーちゃんには逆らえないのでキティと長いキスをしましたが、釈然としないのです。
もしかしたらキティはちーちゃんに頼んだのかもしれません。
僕とキス出来る、シナリオを。
ちーちゃんは基本的に、西洋人形みたいに愛らしいキティに甘いので彼女の言うことをきいたのでしょう。
きっとそうです。
ちーちゃんは、キティに甘いのです。
耳に赤リボンの白猫のキティちゃんのコレクタでもあるので。
まあ、それは多分きっと、関係のないことですけれど。
「んふふっ」回転を止めたキティは遠心力を利用してユウの腕の中に入って顔を寄せて笑う。
「何?」ユウはご機嫌なキティを睨む。睨んだって、キティのご機嫌は変わらないみたいだ。
「今日は、なんていうか、日曜日って感じだねぇ」
突然、そんなことを言ったキティがユウには不気味だった。「……日曜日って感じっていうか、今日は日曜日だよ、キティ」




