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竜魔騎士  作者: ノース
幼少期
4/9

四話  水が意思を持ちました

 三歳の誕生日が過ぎた。

 やけに騒々しい母とメイドによる誕生日会だったが、今となっては良い思い出だ。


 この世界での赤ん坊がどの様な知性を持っているのか不明だが、既に俺はペラペラと喋り始めていた。

 最初は不自然かな、と母の様子を伺ったが、俺が喋り出したや否や「カノンちゃんは頭が良いのね!」と言って喜んでいた為、間違いではなかったのだろう。

 結果的に特別視されてしまったが、致し方あるまい。


 因みに、髪はまだ切っていない。これはおかしいだろう。


 そんな長髪のうざったい、俺にとっては三度目の七月。誕生日は八月六日だったので、恐らくそれで合っていると思う。この世界の一年は十三カ月なので、少々感覚が異なるが。

 この髪のせいか、俺の容姿は非常に男から離れた物になっている。この間、鏡に映った自分の姿を見て「美少女がいる。挨拶の一つでもしておくべきか」と鏡に頭突きを喰らわせた程だ。


 それはさて置き。

ここ一年で俺がして来た事と言えば、本当に魔法の自主練習くらいだ。如何程魔法が扱えるのか、まだ母やメイドには話していない。


 話していないのだが、この間うっかり、若いメイドに魔法の訓練を見られてしまった。

 一応、口止めはしてあるが、少々不安である。


(まあ、実質練習に割ける時間が増えた訳だし、結果オーライかな……)


 俺の身の回りの世話をするのは彼女だけなので、今まで彼女が部屋に訪れる時と、母と一緒にいる時間以外は、殆ど魔法の練習を行っていた。

 しかし、今やその専属メイドさんの目を気にせずとも良くなった。つまり、更に魔法の訓練に励む事が出来るようになったのだ。


「カノン様、昼食のご用意が……きゃあ!?」


 俺を呼びに来た例のメイドが、扉を開けた途端に尻餅をついた。


「こ、今回はどのような魔法を……?」

「風属性の下級魔法だよ」


 ポカーンとしたまま「は、はあ……」と頷くメイド。名はヒナというらしい。

 港町出身らしく、家族を支援する為にここで働く事になったのだとか。家族思いな子だ。


食事へ向かう途中、チラリと窓へ目を向けると、俺の姿が映っていた。前世とはかけ離れ過ぎているので、自分だという実感がない。

 外に他人が浮かんでいる気分だ。


 ダイニングルームに入ると、いつも通り、綺麗な食器に整った料理が盛り付けられていた。

 後ろには、母が雇ったコックが立っている。気持ちの良い笑顔を振りまく青年で、腕も良い。

 その爽やかさ故に、メイド達からの人気も高かったり。


「相変わらず美味しいよ。流石だな」


 褒めてやると、彼は嬉しそうに頬を緩ませ、小さくガッツポーズを決めた。

 俺が笑って称賛すると、いつもこうやって喜んでくれる。まあ、俺もそれが嬉しくて、いつも褒め称えてやっている訳だが。


「お褒めに頂き光栄です、カノン様!」

「あ、ああ」


 しかし、元気が良すぎるのも考え物だ、

 こういう人間の対応のし方は、よく知らないのだ。


 コックが下がり、部屋に俺とヒナだけが残された。

 特に会話もなく、半分程胃に入れた所で、俺はフォークとナイフを動かす腕を止めた。余談だが、礼儀や行儀についてはまだまだ発展途上である。


「ヒナ、あのコック、君にはどう見える? メイド達の間でも、人気が高い様だけど」

「そ、そうですね。カッコよくて、頼り甲斐のある方だと思います」


 くそ、イケメンめ。

 表面上無関心を取り繕いながら、俺は昼食をそそくさと平らげた。


 外の空気を吸って部屋に戻ろうと、足を運んだのは中庭。

 ここに居るのは、母のパートナーである竜、ヴァーランだ。戦っている所を実際に見た事はないが、見上げなければ視界に入らない頭に、強靭な体躯を持つアレは、誰が見たって一言「強い」というイメージを持つだろう。


「今日もヴァーランはお眠だな……」


 微笑みながら鼻の先を撫でてやる。下に向いて生えた巨大な牙は、何年か一度に生え変わるらしい。

 薄く開いた双眸が、ゆっくりと俺を捉える。まあ、酷い時は一週間続けて移動、戦闘を繰り返すらしいからな。

 しっかり休める時に休んでおかなければ、いざという時に全力を出し切れない。


 低いエンジン音の様な声を小さく出し、再び両目を閉じた。


「お休みヴァーラン、良い夢見ろよ」


 と、我が家の守護竜と言っても過言ではないヴァーランの頭を撫で、俺は中庭を後にした。

 そして自室に戻り、早々魔導書を開く。次はどんな魔法を試そうか。

 今はヒナも近くにいないし、好きなだけ魔法の鍛錬ができる。

 そんな訳で、現在魔法を使用中。水道からバケツに注いで来た水を、指で差しホイホイと操る。

 一度、この水流を生き物の形にして、自我を持たせようとした事がある。

 しかし、魔法と同じで、それには強く思わなければならない。大勢の人間の願いで守護像が心を宿らせ、不幸を打ち倒したというのは、このガーバウス王国では有名な話だ。


 そんな人数が願ってやっと、石像一つ動かせるのだ。俺一人が頭を悩ませ、拝んだりしたって出来る訳がない。

 溜息を漏らしながら、水を鳥の形に調整したりして遊ぶ。羽ばたかせたり、それっぽく見せる。

 次に、バケツの中から新しく二羽目。楽々二羽を整列させる。


(ここまでは余裕……次もいけるな……)


 三羽目も……成功だ。


 しかし、四羽目は成功した事がない、どうしても集中力が途切れて、全ての鳥が崩れ落ちてしまう。

 その度に床がびちゃびちゃに濡れて、ヒナと一緒に雑巾で拭く。彼女は自分がやると言うのだが、流石に俺のせいで手間を掛けてしまっているので、そういう訳にはいかない。


 頬を汗が伝う。知恵熱とでも言うのだろうか。頭の中で三羽を象ったまま、もう一羽をバケツの中から……。


「出来た!」


 直後、床に大量の水がぶちまけられた。




          *




「ごめんヒナ、また手伝わせてしまって」

「いえいえ、メイドとして当然です!」


 まだ十四歳だというのに、既にメイド根性がしみ込んでいるらしい。先輩メイドのお陰何だとか。恐るべし、マナード家メイドの教育。


 そんな訳で、後片づけが終わってヒナが出て行った所で、俺はクルリと本棚の陰へ目をやった。


「もう出て来て良いぞ」


 俺がそう言うと、陰から青い液体の羽が現れる。先程形成した内の四羽目だ。

 どういう訳かこいつだけ意識から剥がしても崩れず、形を保ったままこうして飛んでいる。その上、どうやら自我らしき物まで持ち合わせており、俺が「隠れろ」と言うと即座に本棚の裏側へ逃げてしまった。


 俺の「四羽目に対する執着」が言い伝えの【願い】に匹敵したのだろうか。

 だとすれば、どれだけ俺は四羽を作るのに拘っていたんだ。


 ソファに腰を沈め、溜息を漏らす。鳥はそんな俺を無視して、窓へ寄って外をつんつんと指さしていた。

 外へ行きたいのだろうか。


「子供の好奇心か? まあ良いや」


 独言して、窓を開けてやる。パタパタと羽ばたき、何処かへと飛び去っていく。

 そう言えば、今もあいつは魔力を供給されているのだろうか。それとも、残存した魔力で飛んで……あ、崩れた。


「つめたっ!」


 ただの水に戻った鳥は下へ落下し、花壇の水やりをしていたヒナの頭に掛かる。

 俺は窓をぴしゃりと閉めて、再度バケツを持って水を汲みに蛇口へ向かった。


 飛距離十メートル弱しか持続しなかったので、少々悔しいのだ。次は魔力を込めて、もっと飛ぶよう丹精込めて作ってやる。

 自室に戻り再チャレンジ。今までは小鳥サイズでしか作ってこなかったが、今回は白鳥サイズはある筈だ。

 バケツから現れた水白鳥に、両手をかざしてむむむと眉を寄せる。


 そう言えば、今回も意思を持ってるな。一度成功すれば、もう後は全部意思を持って生まれるのだろうか。

 疑問は晴れる事なく、俺は窓を開放して白鳥を空に放った。


 おお、今度は見えなくなるまで飛んで行った。それにしても、アイツはどこへ向かって飛んでいるのだろう。

 水白鳥の消えた空を眺めていると、下の方で俺をジト目で見ているヒナの姿が。

 苦笑しながら謝る俺にはまだ、あの水白鳥がどんな事態を引き起こすのか、見当もつかなかった。


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