エピローグ
愛は、恋人と歩いていた。
優しくて、どことなくお父さんに似ている人だった。
愛を大事にしてくれる。
愛はとても幸せだった。
クレープ屋の前に行列が出来ていた。
「あそこの、クレープ美味しいんだって。食べようよ」
「いいよ」
愛がクレープを、買いに列に並ぼうと近づいていくと、
クレープを手にした男にぶつかった。
「失礼」
どこかで聞いた声。
顔を見てみた。
「木村さん」
「えっ」
3ヶ月前に、愛を説得に現れた男、木村だった。
相変わらず、木村は丸々と太り、汗を流していた。
「どうして、こんな所にいるの?」
「え〜実はですね。愛さんのお父さんを天国から呼んだのが、上司にばれましてね。結局首になりましてね」
木村は頭をかきながら、笑っている。
「私のせいで、ごめんなさい」
「いえいえ、謝らないでください。やっぱり私には向いてなかったんですよ」
木村は、笑いながら話を続けた。
「私、今度クレープ屋をしようと思いましてね。私、食べるの大好きですから」
突き出たお腹を、叩いた。
愛は思わず笑ってしまった。
「それでですね、この世で有名なクレープを参考にと、ここに来たわけです。でも、まさか宮部さんに会えるなんて思っても見ませんでしたよ」
「私も、ビックリしました。クレープ屋ですか頑張ってください」
「はい。では妻が待ってますんで、失礼」
木村は、ドタドタと走っていた。
愛が、木村の走っていく方を見ると、綺麗な女性が立っていた。
木村は「お待たせ」と、美人と手を繋ぎ行ってしまった。
「はぁ〜」
愛はため息をついた。
あの木村があんな美人と?世の中わからないものだ。
隣にいた彼が不思議そうに愛を見ている。
「今の人誰?」
「うん。ちょっとね」
あの自殺した夜の事を説明しても、信じてくれないだろう。
私だけの秘密。
「それより、クレープ食べようよ」
「うん」
彼は、まだ不思議そうに首をひねっている。
列に並び、愛は悪戯っぽく笑った。
「私、幸せだよ」
「えっ?」
「何でもない」
「気になるな〜」
「いいの」
愛は、彼の手を握った。
大きくって、温かい手。
END
最後まで読んでくれてありがとうございました。