[第三話] 一分で読めるショートショート
高校生が時給3000円のバイトを始める。
仕事内容は「死神」。
人の寿命を迎えに行くだけ。
しかし最後の依頼は自分の祖父だった。
仕事か家族か。
最後に選ぶ結末。
「時給三千円!? 高校生でも可?」
学校帰り、商店街の掲示板に貼られた求人広告を見て、思わず声が漏れた。
『高時給・経験不問・黒い服を貸与・人と話すのが苦手でも歓迎』
金欠だった俺は、深く考えずに書かれていた住所へ向かった。
そこは古びた雑居ビルの最上階。
扉には『死神派遣事務所』と書かれている。
「……冗談だよな?」
恐る恐る中へ入ると、黒いスーツ姿の女性が笑顔で迎えた。
「ようこそ。採用です。」
「まだ面接もしてませんけど?」
「ここへ来られた時点で適性があります。」
説明はたった一つだった。
「あなたの仕事は、寿命を迎えた人を案内すること。命を奪う仕事ではありません。」
半信半疑のまま契約書にサインをすると、黒いコートと銀色の懐中時計を渡された。
「この時計が止まった人のもとへ行ってください。」
その夜、初めて時計が止まった。
病院の一室。
眠るように息を引き取った老人の前に立つと、白く透けた姿がゆっくり起き上がった。
「もう時間か。」
老人は驚く様子もなく笑った。
「最後に孫へ『ありがとう』と言えなかったのが心残りだ。」
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられた。
俺はただ頭を下げ、一緒に光の中へ歩いた。
それだけで仕事は終わった。
人を殺すわけではない。
それでも、毎回胸が重くなった。
数週間後。
俺は何人もの最期に立ち会った。
夢を追い続けた青年。
家族に囲まれて旅立つ母親。
一人きりで静かに眠る老人。
みんな、それぞれの人生を生きていた。
ある日、懐中時計が止まる。
表示された住所を見て、俺は凍りついた。
そこは祖父の家だった。
「そんな……。」
急いで駆けつけると、祖父は布団で穏やかに眠っていた。
俺の姿を見ると、目を細める。
「来たか。」
「じいちゃん……。」
「その格好を見れば分かる。お前が迎えに来たんだな。」
涙があふれた。
「嫌だよ。まだ一緒にいたい。」
祖父は優しく笑った。
「人はいつか終わる。だから、生きている時間が大切なんだ。」
俺は時計を強く握りしめた。
「……仕事なんて辞める。」
すると懐中時計に小さなひびが入り、静かな音を立てて砕け散った。
次の瞬間、黒いコートは消え、祖父の魂も見えなくなった。
祖父は最後に俺の頭をそっと撫でるような仕草をし、穏やかな表情のまま旅立っていった。
翌日。
俺は再びあの事務所を訪れた。
しかし、そこには何もなかった。
看板も、扉も、事務所も消えている。
近くの店の人に聞いても、「そんな事務所は昔からないよ」と首をかしげるだけだった。
ポケットには、あの日の給料だけが残っていた。
そのお金で俺は祖父が好きだった花を買い、墓前に供えた。
風が静かに吹く。
どこからか祖父の笑い声が聞こえた気がした。
あのアルバイトで俺が学んだのは、お金の大切さではない。
誰かと過ごせる「今日」は、当たり前ではないということだった。
だから俺は、会いたい人には会い、伝えたい言葉は後回しにしない。
明日が来る保証なんて、誰にもないのだから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は「もし死神の仕事がアルバイトだったら?」という少し変わった発想から、この物語を書いてみました。
死神というと怖い存在を思い浮かべるかもしれませんが、この作品では「命を奪う者」ではなく、「人生の最後に寄り添う案内人」として描いています。
普段は当たり前に過ごしている今日という一日も、誰かにとってはかけがえのない時間なのかもしれません。
この物語を読んで、「大切な人に会いたくなった」「ありがとうを伝えたくなった」と少しでも思っていただけたなら、とても嬉しいです。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると次回作の励みになります。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。




