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[第三話] 一分で読めるショートショート

作者: ニルム
掲載日:2026/07/30

高校生が時給3000円のバイトを始める。

仕事内容は「死神」。

人の寿命を迎えに行くだけ。

しかし最後の依頼は自分の祖父だった。

仕事か家族か。

最後に選ぶ結末。

「時給三千円!? 高校生でも可?」

学校帰り、商店街の掲示板に貼られた求人広告を見て、思わず声が漏れた。

『高時給・経験不問・黒い服を貸与・人と話すのが苦手でも歓迎』

金欠だった俺は、深く考えずに書かれていた住所へ向かった。

そこは古びた雑居ビルの最上階。

扉には『死神派遣事務所』と書かれている。

「……冗談だよな?」

恐る恐る中へ入ると、黒いスーツ姿の女性が笑顔で迎えた。

「ようこそ。採用です。」

「まだ面接もしてませんけど?」

「ここへ来られた時点で適性があります。」

説明はたった一つだった。

「あなたの仕事は、寿命を迎えた人を案内すること。命を奪う仕事ではありません。」

半信半疑のまま契約書にサインをすると、黒いコートと銀色の懐中時計を渡された。

「この時計が止まった人のもとへ行ってください。」

その夜、初めて時計が止まった。

病院の一室。

眠るように息を引き取った老人の前に立つと、白く透けた姿がゆっくり起き上がった。

「もう時間か。」

老人は驚く様子もなく笑った。

「最後に孫へ『ありがとう』と言えなかったのが心残りだ。」

その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられた。

俺はただ頭を下げ、一緒に光の中へ歩いた。

それだけで仕事は終わった。

人を殺すわけではない。

それでも、毎回胸が重くなった。

数週間後。

俺は何人もの最期に立ち会った。

夢を追い続けた青年。

家族に囲まれて旅立つ母親。

一人きりで静かに眠る老人。

みんな、それぞれの人生を生きていた。

ある日、懐中時計が止まる。

表示された住所を見て、俺は凍りついた。

そこは祖父の家だった。

「そんな……。」

急いで駆けつけると、祖父は布団で穏やかに眠っていた。

俺の姿を見ると、目を細める。

「来たか。」

「じいちゃん……。」

「その格好を見れば分かる。お前が迎えに来たんだな。」

涙があふれた。

「嫌だよ。まだ一緒にいたい。」

祖父は優しく笑った。

「人はいつか終わる。だから、生きている時間が大切なんだ。」

俺は時計を強く握りしめた。

「……仕事なんて辞める。」

すると懐中時計に小さなひびが入り、静かな音を立てて砕け散った。

次の瞬間、黒いコートは消え、祖父の魂も見えなくなった。

祖父は最後に俺の頭をそっと撫でるような仕草をし、穏やかな表情のまま旅立っていった。

翌日。

俺は再びあの事務所を訪れた。

しかし、そこには何もなかった。

看板も、扉も、事務所も消えている。

近くの店の人に聞いても、「そんな事務所は昔からないよ」と首をかしげるだけだった。

ポケットには、あの日の給料だけが残っていた。

そのお金で俺は祖父が好きだった花を買い、墓前に供えた。

風が静かに吹く。

どこからか祖父の笑い声が聞こえた気がした。

あのアルバイトで俺が学んだのは、お金の大切さではない。

誰かと過ごせる「今日」は、当たり前ではないということだった。

だから俺は、会いたい人には会い、伝えたい言葉は後回しにしない。

明日が来る保証なんて、誰にもないのだから。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

今回は「もし死神の仕事がアルバイトだったら?」という少し変わった発想から、この物語を書いてみました。

死神というと怖い存在を思い浮かべるかもしれませんが、この作品では「命を奪う者」ではなく、「人生の最後に寄り添う案内人」として描いています。

普段は当たり前に過ごしている今日という一日も、誰かにとってはかけがえのない時間なのかもしれません。

この物語を読んで、「大切な人に会いたくなった」「ありがとうを伝えたくなった」と少しでも思っていただけたなら、とても嬉しいです。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると次回作の励みになります。

それでは、また次のお話でお会いしましょう。

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