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第8話:探索開始_2


 悠里が納得のいかない顔をして、ブツブツと言いながら考え事をしている。それに同調するように、美咲も頷きながら考え事をしていた。

 

「アレが次の家だな。二軒目も入ってみよう」


 涼の言葉に導かれ、一件目を見終わった一行は、それほど遠くない位置にあった次の家の前に立った。念のために、家の周囲を一周ぐるりと見てみたが、特に目立つものも不審なものも何もなかった。……が、ポツンと残された切り株に刺さる古びた手斧が、どこかに消えたこの家の住人の存在を一行に教えていた。

 皆何か言いたそうだったが、何も言わずに二軒目の家の中へ入った。


「……さっきより、もっと嫌な臭いがします……」


 美咲は顔をしかめている。誰もが同じことを思ったようで、その顔は同じように歪んでいた。


「一軒目で慣れたかと思ったけど……全然そんなことはなかったようね」

「さっきの家よりも、なんかこう……臭くない? なぁ、修平」

「俺もそう思うよ。圭介は俺より鼻が利くし、その圭介だけじゃなくて、俺も思うんだから間違いないな。でもこれ、一体何のニオイだ……?」

「うーん。ツンとくるような、うわってなるような……。鼻に来るよな。『うわっ!! クサッ!!』って」

「そうそう、それなんだよ。特徴的で……あれか? 腐った卵? 硫黄みたいな」

「それだ! 癖のあるニオイだよな。でも、もっとこう、目にくる」

「わかる、目にくる。涙が出そうな、刺激だよな、刺激」

「鼻の奥にもだよな」


 圭介と修平が、ニオイの正体を突き止めようと躍起になっていた。しかめっ面のまま、思いつく原因を口にしている。みな、このニオイには気付いている。一軒目を遥かに超えた、強烈なニオイが充満していることに。


「……みんな、来てくれ。こっちの部屋だ、おそらくニオイの正体は」


 四人から離れ、別の部屋を見に行っていた涼が戻ってきた。手招きをされてついて行ってみると、一軒目よりも更に不気味なものを見つけた。

 

 ――畳の上に、丸く並べられた古めかしい人形と掻けて汚れた皿。皿にはとっくに乾燥した黒い液体が固まっている。


「まるで、何かの儀式の跡……?」


 悠里が慎重に近づく。彼女を尻目に、涼が皿を指で軽く擦り、そのニオイを確かめた。


「やっぱりな。血だ――。古いが……獣のものじゃない、人間のだ」


 美咲は顔を青ざめさせ、一歩後ずさる。その瞬間、彼女の足に何か当たった。それは一冊の本だった。中身を確認しないまま、彼女はそれを鞄にしまった。


「やっぱり、この村の調査は、やめたほうがいいんじゃ……」

「まぁここまで来たんだ。……でも、引き返すなら今しかないぞ」


 修平が言った。


 しかし涼はその言葉に答えず、ただ儀式の痕跡をじっと見つめていた。その横顔には、恐怖よりも別の感情――強い執着が滲んでいた。


 二軒目の探索を続けるうちに、外から「ザリ……ザリ……」と何かが地面を擦る音が聞こえてきて、五人は一斉に顔を上げた。


「な、何だ今の」


 圭介が声を潜める。出て行こうとした彼を涼が手で制し、玄関から外を覗いた。……だが、視界には誰もいない。ただ風が木々を揺らしているだけだ。ザリザリと引っ掻き擦るような音も今は聞こえない。


「気のせいだと良いんだけどな……」


 美咲が不安げに呟いた。


 ――しかし、再び「ザリ……ザリ……」という音が別の方向から響く。まるで、何か未知のモノがゆっくりと彼らを取り囲むように移動しているかのようだった。


「……涼」


 修平が低い声で呼ぶ。涼は短く頷いた。


「行くぞ。音のする方を確かめる」

「おいおい、逆だろ普通!」


 圭介が小声で抗議するが、涼は構わず歩き出した。彼の後を追って、圭介も外へ出る。仕方ないといった顔で、圭介・美咲・悠里もその後に続いた。


 ――音を追って進むと、やがて開けた場所に出た。途中で気が付いたが、まだ新しい足跡のようなものが地面に薄く残っている。辿り着いたそこは村の中央広場らしく、崩れた石碑と大きな井戸があった。井戸の縁はひび割れ、内部は真っ暗で底が見えない。


「……ここ、何かおかしいよ」


 悠里が周囲を見回す。


「ねぇ、一緒にあった足跡が、不自然にここで途切れてる」


 確かに、先ほどまで続いていた足跡は井戸の周囲で消えていた。まるで井戸に吸い込まれたように。


「もしかして、誰かが……」


 美咲が井戸を覗き込もうとする。


「やめろ!」


 涼が素早く腕を掴んだ。


「不用意に覗くな。何がいるかわからない」


 その直後、「コト……ン」と井戸の底から小さな音が響いた。


「っ、いやぁっ!」


 美咲は悲鳴を上げて涼の腕にしがみついた。


「……今、井戸の底に何か落ちたよな?」


 圭介が青ざめた顔で言う。


 涼は井戸を睨みつけ、低く呟いた。


「……ここだ。【何か】がいるなら」


 ザリ……ザリ……。



 広場に立つ五人の背後で、また聞き覚えのある音がした。今度は先と比べても、明らかに位置が近い。五人が一斉に振り向いた瞬間、視界の端に何かが一瞬だけ横切った。


「……今、いたよな」


 修平が震える声で言う。


「いた。人間じゃない」


 涼が即答する。


 空気が張り詰め、全員が武器代わりに懐中電灯やカメラを握りしめた。そして――不気味な気配が、ゆっくりと彼らに近づいてきた。

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