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第7話:探索開始_1


 五人が鳥居をくぐってから、周囲の空気は一変した。外の林道よりも更に冷たく、重い湿気が肌にまとわりついてくる。備考から脳に抜ける空気には、独特な土の匂いと、古い木材が腐ったような甘い臭気が入り混じっていた。そこに雨と汗のニオイが混じり、脳みそを揺さぶってくる。


「……うわ、ひでぇなこれ」


 圭介が思わず鼻を押さえた。


「マジで何十年も人が住んないって感じだな」

「……いえ、待って。もっと最近まで、誰かいた可能性もあるみたいよ」


 悠里が呟く。


「見て、ここ。道に比較的新しい足跡が残ってる」


 地面には、土と苔の上に人間の靴跡らしきものがいくつもついていた。それはこの村の奥へと続いている。


「昔の足跡が、こんなに綺麗に残ってるはずないもの。最近誰かが来たのよ、今の私たちみたいに」

「なるほど、最近、誰かが何か目的があってきた、ってことか……」


 修平が警戒したように周囲を見渡した。辺りに流れる不穏な空気、ピりついた感覚がそうさせる。自分たちはサークル活動の一環、調査という名目でここへやってきた。しかし、先人が同じような悪意のない理由で来たとは限らない。


 美咲は足元を見ながら小声で言った。


「……行方不明になった人たちも、もしかして、まだこの村の中に……?」


 ピクリ、と全員の耳が動く。しかし、誰も何も言わない。重苦しい空気だけが一向にのしかかる。もはや、誰もこの中で口に出して良い言葉と、口に出してはいけない言葉の判別もできなくなっていた。


 先頭を立つ涼も答えず、ただ前へ進んだ。その背中に、黙って他の四人もついていく。


 しばらく歩いて見つけた村の最初の家屋は、二階建ての一軒家だった。ただとっくに屋根瓦は崩れ、ひび割れた壁は苔に覆われている。窓ガラスはすべて割れており、風に飛ばされた木の葉や砂が床に積もり、内部は暗く湿っていた。


「入ってみよう」


 窓の外から様子を窺っていた涼が短く言った。


「お、おいマジかよ……崩れたりしねぇか?」


 圭介が躊躇うが、悠里はもう玄関の引き戸に手をかけていた。


「慎重に調べれば問題ないわ。これを見に来たんだもの。中に入らないって選択肢はないわよ」


 ギギ――キイィ――イィ――ギギギッ――


 軋む音を立てながら扉が開いた。中は予想以上に荒れていたが、家具がいくつか残っており、床には散乱した紙や衣類のようなものが積もっている。


「……これ、何だろう?」


 悠里が紙を拾い上げた。黄ばんだ紙には、古い筆文字で名前と日付が書かれている。


「昭和五十年……? 数字は……金額かな。帳簿?」


 修平が覗き込む。


「あっ……あぁ……!」


 不意に美咲は部屋の奥の壁を見て、小さく悲鳴を上げた。


「……な、何ですか、これ」


 壁一面に、おびただしい数の御札が貼られていた。その多くは剥がれかけ、既に文字が滲んで読めなくなっている。壁に隙間なく貼られているだけではなく、一度貼られたお札の上から、更にまたお札が貼られていた。上へ行けば行くほど乱雑に貼られており、貼った人間の死ぬほどの恐怖と狂気が垣間見える。


「……封印、かもな」


 涼が低い声で言った。


「こんなにお札が貼ってあるんだ。ここで何かを『閉じ込めてた』可能性がある。その何かを、外へ、出さないために」


「おいおい、やめろよそういう怖ぇ話は……」


 圭介が苦笑したが、明らかに顔が引きつっていた。彼はこの手の話を信じてはいなかったが、怖くは思っていた。作り物でも本物でも、この手の話はすべからく怖い。ただ『何か来たら殴ってでも倒せばいい』と思っているのは本心からで、怖さを表に出してみんなを不安にさせないよう、その大きな身体で虚勢を張ろうとしていた。


「なぁ、二階、これじゃあ無理、だよな?」


 修平の声にみんなの意識がハッと戻る。外から見ても、屋根は崩れていた。二階建てなら、その崩れた際の瓦礫で上は埋まっているかもしれない。


「ちょっと見てきたけど、階段もボロボロだった。端っこ通ればギリギリ上れるかもしれないけど……その後の保証はできないな」


 彼はそう言って首を振った。


「仕方ない、一通り一階を見て、二階のことは諦めよう」

「写真はスマホで一応撮ってきたから。帰ってからみんなで見ようぜ。恭一のためにも、みんな写真取れそうな時は撮っといてやれよ」

「そうだ、動画も!」


 恭一から一通りの機材を受け取っていた圭介は、ビデオカメラを回し始めた。撮れる部分は記録に残す。自分たちの調査だけでなく、この先の再々開発始動や、過去の事件事故の謎を解くカギになる可能性がある。


 一軒目で目立ったものは、あのお札が壁一面に貼られた部屋と、その部屋に落ちていた帳簿らしき物だけだった。人のいた形跡はあったものの、人の住んでいた気配はない。鼻もニオイに慣れたころ、彼らは崩れかけた家を後にした。


「一軒目から、視覚的にはバッチリだったわよね。恭一、きっと写真や動画を見たら、喜ぶと思うわ」

「いかにも……なおうちでしたからね」

「そうよね。でも、家なのにあんまり生活感がなかったのが不思議ね。服はあったけど、人が住んでたようには思えないって言うか……」

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