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第5話:神伏村への道_2



「ええっと……地蔵の顔が赤い布で覆われてるのは、多分地元の風習よ。ドンピシャな検索結果はなかったけど……。おそらく内から悪さをしようとする霊を鎮めるとか、目を塞いで中身を見せないようにする儀式とかね」

「普通は、前掛けを付けたり、頭巾を被せたりしますよね?」

「そうね。わざわざ顔を……しかも目の辺りを覆うのは聞いたことがないわ」

「なぁ、その前掛けとか頭巾には、何の意味があるんだ?」


 首を傾げながら圭介が聞いた。


「通常は、汚れを祓うだとか、災いを遠ざけるって意味があるのよ。元々赤には、そういう意味合いがあるのよね。ホラ、還暦のお祝いに、赤いちゃんちゃんこを着るでしょ? あとは、神社の鳥居とか。あれは厄除けとか健康祈願とか、そういう思いが込められているの」

「へぇ、そうなんだ」

「なるほど……そういう話なら、供養って話もありそうですね。あの色なら、道に迷いませんもん」

「普通じゃないから、何かを抑えようとしてる風に見えちゃうわよね。悪い意味のほう」

「なんつーか……それを踏まえると、目元を隠すって縁起でもねぇ話だな」


 修平が眉間にしわを寄せて、苦い顔をしている。


「……」


 涼は何も言わず、ジッとその地蔵を見つめていた。


 ゆっくりをタイヤを滑らして、車は林道へ入る前に小さな集落を通りかかった。今まで見てきた家々よりも、更に古めかしい……というか、人が住んでいると言われなければ、廃屋だと思ってしまいそうな家が点在していた。近くにある古い商店が一軒だけ開いており、一行は車を停めてそこへ寄ることにした。


「地図を確認すると、ここが神伏村までにある最後の集落だな。……人の気配があまりしないが……」

「飲み物、思ったより減るのが早いわね。追加しておきましょう」

「そうだな」

「僕はちょっと写真を撮っておくね。神伏村に近づいているなら、ここでも写真に何か写るかもしれないし。後々の資料にできそうだから」


 フラッとスマホを構えながら、恭一が先に車から降りて離れていった。


「開いてるんでしょうか、あのお店」

「まぁ店電気ついてるみたいだし。扉も開いてるよな? 取り敢えず行ってみようぜ!」

「あ、おい!」


 修平が止めるのも聞かず、圭介は車を降りて一直線にお店へと向かった。


「すみませーん!」


 そう言いながら、誰よりも先に店の中へと入っていく。


「こんにちはー!」

「……」

「……こんにちは……?」


 店内には年老いた女性が一人、ポツンと無言でレジに座っていた。一度だけチラリと圭介へ目線をやったが、何も言わずにまた正面を見据えている。

 何とも言えない気持ちになりつつも、圭介は店の扉からひょっこりと顔だけ出して、入ることを躊躇っていた修平たちを手招きした。


「なぁ、人、いるよ。商品もあるし」


 促されるまま、残っていた一行はお店の中へ入った。写真を撮り終えた恭一も含め、大人六人が入ると少し狭く感じる程度の広さの店内は、それでも所狭しとお菓子や飲み物、生活用品が置かれていた。


 涼が飲み物を手に取り、会計をしようとした時、女性がポツリと口を開いた。


「……あんたら、神伏に行く気かい?」


 一行の空気がピタリと止まる。涼がわずかに目を見張り、しかし静かに頷いた。


「やめときな。あそこは……戻れなくなるよ」

「あの、理由を聞いてもいいですか?」


 後ろに並んでいた悠里が前に出た。


 女性は小さく首を振るだけだった。


「理由なんていらないよ。行ったら、もう帰れない。ただ、それだけさ」


 不安な気持ちを抑えて、買い物を手早く済ませ店を出た後、美咲が不安げに涼を見た。


「……やっぱり、行かないほうがいいのでしょうか」


 イヤイヤと涼は首を振った。


「行く。俺たちは調査しに来たんだ。冒涜しにわざわざここまで来たわけじゃないし、村の邪魔をしに来たわけでもない」


 その声はいつになく落ち着いていたが、わずかに張り詰めたものがあった。


「……あっ、あれ」


 修平の震えた声に、思わず彼が指さしたほうを見る。


「……」


 そこには、今にも崩れそうな家の中から、顔を出して涼たち一行を見つめる集落の人々の姿があった。


「生きてる、よな?」


 修平の言葉に応えるよう、じっとりと生ぬるい風が吹く。いつの間にか増えていくその視線の数から逃げるように、一行は急いで車へ乗り込み車を出した。


 先ほどのことを考えながら飲み物を口に含み、美咲は気持ちを落ち着けていた。道すがら見かけた地蔵といい、人気のない集落に見える人間の影といい、既に下手なお化け屋敷よりも頭が怖がっている。しかし、彼女にも神伏村に向かう理由はあった。それを内に秘めて、村へと続く風景をただ眺めていた。



 集落を後にし、車はやがて舗装が途切れた林道へと入った。木々が両側から覆いかぶさるように生い茂り、もうすぐ昼間だというのに光は薄暗い。フロントガラスに木の枝が擦れるたび、ザワザワと不気味な音が車内に響く。


「……この道、本当に車で大丈夫か?」


 修平がハンドルを握りしめたまま顔をしかめる。雨が降っていた影響からか、細くうねった道はぬかるみが酷く、ガタガタと車体を揺らしながらタイヤが何度も泥を跳ね上げた。


「大丈夫。こんな酷い道だけど、まだ地図に載ってる範囲だから」


 悠里がタブレットを見ながら答えるが、心なしかその声に自信はなかった。

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