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赫き蠢きの廃村①-贄子の夢、胎主の詩-  作者: 三嶋トウカ
第三章:古城の亡霊

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第48話:恭一、最寄りの集落にて①


 それ以上の問題は起こることなく、恭一と原田は最寄りの集落へと辿り着いた。出た時と何ら変わらない、静かで異様にねっとりとした空気が二人を迎える。


「やっと着きましたね」

「無事に着いてよかったわ」


 ふぅ、と大きく息を吐いて、原田はタオルで汗を拭った。恭一も額の汗を拭き、息を整える。


「この後、どうしましょう? 休憩できる場所があればいいんですが」

「うーん、店はあの、ばーさんのところくらいやろなぁ。喫茶店みたいなんは、なかったような」

「ですよね……。僕も見た記憶がないので」

「困ったなぁ。戻ってきたものの……」


 二人は辺りをキョロキョロと見回しながら、入れそうな建物を探す。


 そっと内側から戸を開けられた家からは、人の視線を感じた。恭一は、知らない誰かと目が合うが、ピシャリと扉を閉められた。そこに何人いたのかも、性別も年齢もわからない。

 敵意があるかはわからないが、何となく、気持ち悪さを感じていた。


「あかんわ、やっぱり店っぽいのはあらへん。あー、まぁしゃーないな、あのばーさんとこいこか」

「大丈夫ですかね? あんまり、歓迎されている感じはしなかったですけど……」

「他に行く場所もなさそやしなぁ。一応店やし、他人様の家に居座るよりはええと思うで」

「そうですよね。うん、うん。ちょっとお邪魔させてもらいましょう」

「決まりやな! さ、いこか」


 恭一と原田は、一つだけある集落の店へ足を運んだ。神伏村へ向かう前に立ち寄った際、飲み物を買った店だ。店主らしき老婆が一人座っており、お世辞にも愛想がいいとは言えない。

 あまり気乗りしなかったが、他に選択肢もない。仕方なく、再び扉を叩いた。


 ガラガラガラッ。


「こ、こんにちは」


 ちらり、と老婆が恭一のほうを見た。「いらっしゃいませ」も「こんにちは」も言うことなく、そのまま視線を逸らす。

 一度目と変わらず、老婆はレジに座っていた。


「あー、すまんけど、ちょっとここに置いてくれんかな? いや、買い物はするし、迷惑はかけん」

「申し訳ないんですけど、仲間の帰りを待たせていただきたくて……」


 そこでようやく、老婆が口を開いた。


「……仲間? 神伏村へいったんじゃなかったのかい?」


 視線だけでなく、顔を恭一へ向けた。普通の反応のはずなのに、どこか不気味さがある。


「はい、あの、僕と彼は、連絡係として残ることになりまして。他はみんな神伏村へ向かいました。もうとっくに到着して、色々見て回ってると思うんですけど」

「せやな、ワシの連れと合流しとるかもしれん。留守番役になったもんでな、ちょっといさしてくれんかなぁ」


 その話を聞いて、老婆は恭一と原田をじぃっと見つめた。何も言わない。ただ見つめるだけ。


「……日が落ちたら、戻ってこなくても帰りなさい」


 滞在の許可。二人は顔を見合わせて笑った。


「ありがとうございます! 近くに何もないので、本当に助かります!」

「助かるわ、ありがとう!」


 ほっと胸を撫で下ろし、恭一はリュックの中からお気に入りのクッキーを取り出した。簡単なラッピングのされた、お洒落な袋入りのクッキー。


「あの、これ、よかったら」


 そのまま、老婆に渡そうとする。


「これくらいしか、お礼に渡せそうなものがなくて……。あ、あの写真は……」


 老婆の背後の壁上部、梁の上に、写真が二枚飾られていることに気が付いた。

 若い男性と、まだ幼さの残る少女。既に色褪せており、写真自体も古そうに見える。今からもう、何十年も経っていそうな古さだ。


「……夫と娘」

「え、あ」


 『夫と娘』――ということは、この老婆の夫と娘なのだろう。写真に映る人物の年齢と写真の古さを考えると、恐らくかなり昔に撮られた写真だ。

 よく見ると黒縁の額に入れられていた。――つまりは、そういうことなのだと恭一は理解した。原田もジッと写真を見ている。


「お供え、してもいいですか?」

「……何を藪から棒に」

「失礼だったらすみません! でも、このお店、二階が住居になってますよね? 一回はお店でも、結局は他人様のおうちにお邪魔してしまうので、よかったら、これ」


 恭一はもう一袋クッキーを取り出した。


「美味しいんですよ! ご家族でどうぞ……って、無神経ですかね……」


 そこまで言って、恭一は『しまった』という顔をした。自分としては百パーセント善意からの行為だったが、どう受け取られるかはわからない。


「ほな、ワシも」


 原田はズボンのポケットから、小さな酒瓶を取り出した。


「ワシはあんまり飲まんのやけど。神様にでも会うたら、備えようと思ってて。代わりに、ご主人に」


 未開封のお酒。キラキラと光っているのは、恐らく金粉だった。


「……二階の突き当り、引き戸の部屋。荷物を置いて、休むといい。それは、ありがたくもらっておくよ」

「よかった! あの、そこの奥においてもいいですか?」

「構わないよ」


 写真の下には、棚が置いてあった。その上には、お供え物らしき花やお菓子が置いてある。

 恭一と原田はクッキーと酒をそれぞれ置いた。


「……どうか、無事に帰れますように」

「何とか、守ってくれんかなぁ」


 二人は各々呟くと、写真に向かって手を合わせる。老婆は、その姿をジッと見つめていた。

 


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