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赫き蠢きの廃村①-贄子の夢、胎主の詩-  作者: 三嶋トウカ
第三章:古城の亡霊

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第38話:石棺の守り手_2


 涼たちは榊原の後に続き、石造りの螺旋階段を降りていった。途中、壁には奇妙なレリーフが彫られていた。人が棺に押し込められ、周囲で何かを祈る巫女のような姿――おそらく、村の因習が古城と結びついていたことを示すものだ。レリーフは一つだけではなく、描かれた絵を変えていくつもはめ込まれている。


「これ……神伏村の因習と関係してるのでしょうか?」


 美咲が小声で呟く。


「あぁ。ここは元々【封じの城】だったようだな」


 一条が答える。


「この村はよくできてる。なんでこんな城を造ったんだと思っていたが……。村人たちはこの城を利用して、様々な儀式を行ったらしい。主に、胎主を信仰し、その力によって悪しきを封じる。この城自体が、呪いを封じ込める箱のような役割をしているんだ。……だが、同時に研究者たちはこの【封じ】の仕組みを実験に使った」


 その言葉が終わる前に、榊原が足を止めた。目の前には、巨大な石扉が立ちはだかっていた。扉には鎖が巻き付けられ、その中央には奇妙な【目】のような意匠が刻まれている。


「ここだ……あの女が囚われてるのは、この先だ」


 榊原が鉄パイプを強く握りしめた。

 そして、涼が扉に手をかけようとした瞬間――。


 ズズ……ズズズ……ズルルルル……ガリ、ガリガリガリガリ……ズズ……ズズズ……ズルルルル……ガリ、ガリガリガリガリ……


 扉の奥から、重くて硬いモノが引きずられるような音が聞こえた。次の瞬間、扉が一人でに震え、巻かれていた鎖が解けていく。


「開くぞ……!」


 榊原が身構える。ゆっくりと扉が開くと、そこには――巨大な石棺が鎮座していた。レリーフにあった、棺のような。……しかしそれだけではない。棺を覆うようにして、今までとはまた違う異形の怪物が膝をついていた。


「……な、何、あれ……」


 美咲が青ざめる。


 ――その異形は、まるで石像が動き出したかのようだった。体表は石のように硬質で、ひび割れた装甲が全身を覆い、腕は異様に長く、先端は鎌状に変形している。頭部には顔の代わりに石の仮面が埋め込まれ、そこには古い文字が刻まれていた。


「【石棺の守り手】だそうだ。……北条さん、こりゃあまたすごいノートを残してくれたな」


 一条が笑いながら引きつった声を出す。


「胎主を守るためだけに造られた護衛異形だ。……つまりは、私たちの目的まではそう遠くないということだな」

「なんだこりゃ!? チッ……くそっ……!」


 榊原が一歩踏み出す。


「女を助けるには、コイツを倒すしかねぇってことだな!」


 守り手が、ゆっくりと顔をこちらに向けた。仮面の目の部分が赤く光り、ギギギギ……と石の軋む音を立てながら立ち上がる。


「構えろ、来るぞ!!」


 涼が鉈を構えた瞬間、守り手が驚異的な速度で飛びかかってきた。


「うおおおおおっ!」


 榊原が先に突進し、鉄パイプを振り下ろす。しかし、守り手は腕の鎌で容易くそれを受け止め、次の瞬間には榊原を壁に叩きつけた。


「ぐああっ――」


 榊原が苦痛の声を上げる。


「榊原さん!!」


 美咲が叫ぶが、守り手はそのまま榊原に鎌を振り下ろそうとした。


「させるかよっ!!」


 涼が横から飛び込み、守り手の腕に鉈を叩きつけた。しかし、刃は硬質な装甲に弾かれ、火花が散る。


「硬すぎる……! 守り手の名は伊達じゃないな……」


 涼が歯を食いしばる。


「関節だ、関節を狙え! 人形の時と同じだ!」


 一条が指示を飛ばす。


「装甲の継ぎ目が弱点だ! 外すんだ!」


 涼が一歩踏み込み、守り手の膝関節に鉈を突き立てる。ガギィィィンッ!! と甲高い音が響き、わずかに装甲がひび割れた。


「よし、効いてる!」


 涼が叫ぶが、守り手は怯むどころか、逆に怒り狂ったように涼を鎌で薙ぎ払った。


「ぐっ……!」


 涼が転がり、壁に背を打ちつける。


「涼さん!」


 美咲が駆け寄ろうとするが、一条が彼女を引き止める。


「行くんじゃない! 今度は君が狙われる!」


 その隙に榊原が再び立ち上がり、守り手の背後に回り込む。


「おおおおあぁぁぁぁぁぁ――!!」


 彼は全身の力を込めて鉄パイプを振り下ろし、守り手の背中の継ぎ目に叩きつけた。


 ガギィィィッ――!!


 守り手の装甲が大きくひび割れ、赤黒い液体が噴き出す。


「あはは! やった、やった! 効いたぞ!! 今だ! 止めを!!」

「わかってる!」


 涼がすかさず飛び込み、鉈を守り手の膝関節に深く突き刺した。守り手が大きく体勢を崩す。だが、その時――守り手が突然、榊原の腕を掴んだ。


「なっ……!」


 榊原が目を見開く。


「榊原さん!?」


 美咲が叫ぶ。守り手はひび割れた膝を引きずりながらも、榊原を持ち上げると、背中の石棺へと叩きつけた。


「ぐっ――ああああああ――」

「離せえええっ!!」


 榊原が必死にもがくが、守り手の背中の石棺が突然開き、内部から粘性の液体が溢れ出した。それはゆっくりと、榊原の身体を包んでいく。


「やめろおおおお!」


 涼が駆け寄るが、守り手は他の腕で涼を突き飛ばす。榊原の身体は粘液によって次第に石棺に引きずり込まれ、そのまま半分溶けるように飲み込まれていった。


「いやあああああああっ!!」


 美咲の絶叫が響く中、榊原は苦悶の表情で涼を見た。


「た、ぁ……たっ、頼む……役場、の……あの女を! たす……助けてやってくれ……! お、れ、より! だ!」

「榊原さん!!」


 涼が必死に手を伸ばすが、その手は届くことなく、石棺が完全に閉じられた。

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