表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫き蠢きの廃村①-贄子の夢、胎主の詩-  作者: 三嶋トウカ
第一章:境界線

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/56

第13話:そこで蠢くモノ_5


 燃える家屋から離れたところで、三人が涼を待っていた。


「涼さん!」


 美咲が涙目で駆け寄る。


「涼……お前ってヤツは……」


 圭介の目も、涙ぐんでいるように見えた。


「アナタ……信じられないわ。……でも、感傷に浸るのはまだ早いと思うの。早くここから逃げましょう」

「はぁ……はぁ……そうだな、まだアレが生きていて、あの中から俺たちを追いかけるために、飛び出てくるかもしれない」


 涼の言葉に、全員がどこか遠くへと再び村の闇へ走り出した。……涼の体力はとっくに限界を迎えている。なんとか気力を振り絞って、みんなを勇気づけるために走る彼の腕を掴み、自分が前を走ることで圭介は、彼に安心感とわずかな体力の温存する余地を与えていた。

 家屋のほうでは、火に包まれた異形がまだ暴れている音が響いていた。しぶとくて強い。涼の予感は半分当たっていた。


 ――そして、修平の亡骸はそこに残されたままだった。


 涼の活躍により、辛うじて窮地を脱した四人は、荒れ果てた畦道を息を切らしながら駆けていた。涼だけでなく、もう他の三人の体力と気力も限界を迎えそうだった。夜風が頬を打つが、汗で張り付いた服が冷たく感じる余裕を与えてはくれない。


「……はぁ、はぁ……り、涼……け、結構走ったけど……っ、ま、まだ追ってくると思うか?」


 圭介が荒い息の合間に問う。体力に自信のある彼でさえ、今のこの状態なのだ。女性である悠里と美咲は、生き延びたい一心で今ここにいるようなものだった。涼は走りながらも後方を鋭く振り返った。家屋はとっくに大きな炎と煙に包まれており、そこから更に黒煙が空に昇っていたが、遠目では異形の影は見えない。わからなかった。


「……油断するな。あんなモノがあの程度で死ぬとは思えない。……死んでたら嬉しいが」

「でも、火は効いてた……んだよね? だから、今まだここへは辿り着いてないってことなんだよね?」


 悠里が声を震わせる。だが涼は頷きもせず、再び前を見据えたまま走り続けた。美咲は言葉を発さず、涼の背中を追うように走っていた。その顔色は青白く、涙と汗で頬が濡れている。これだけ訳もわからない状態で、生きるために走ることを強制されたのなら当たり前だ。


 しばらく走った後、圭介が手を上げて止まるよう合図した。


「ここで少し休もう。でも、できるだけ声は出さないように」


 四人は道端の廃屋に入り、埃だらけの床に腰を下ろした。屋根には大きな穴が空いており、月光が床に筋を描いている。点在している廃屋は、今の彼らにとっては唯一の安らげる場所だった。走らなくて良い。異形も見ずに済む。


 はぁ……はぁ……マジで、何なんだよあの化け物……」


 圭介が頭を抱えた。悠里も顔を覆い、小さく呟く。


「修平が……あんな、簡単に……」


 美咲は何も言わず、両膝を抱えてうずくまっていた。その肩は小刻みに震え、口元を押さえながらも嗚咽が漏れている。必死に、音を出さないよう堪えているようだった。涼はそんな美咲を一瞥し、低い声で言った。


「……泣くな。お前が泣いてたら、修平が無駄死にになる。俺たちを生かすために、アイツは死んだようなものなんだ」


 美咲が顔を上げた。涙に濡れた瞳が涼を見つめる。


「……でも、でも! 私……怖い……怖いんです……。涼さん、もう帰りましょうよ……」


 涼は少しだけ目を伏せ、そして静かに答えた。


「帰れるなら、とっくに帰ってる。だがあの化け物がいる限り、俺たちは生きて村を出られない」


 圭介が苛立ったように吐き捨てる。


「じゃあ、どうすんだよ! お前、何か考えがあるのかよ!」

「怒るな、圭介」

「元はと言えば! お前がこんなところに来るって言い出さなけりゃあ……!」

「やめて圭介。アナタだって、サークルのメンバーじゃないのに『面白そうだから。守るから』ってついてきたのよ? 何か言える立場なの?」


 悠里の言葉に口ごもった圭介を、複雑そうな顔で圭介は見つめた。


「……まずは村の全体を把握する。ここだって、化物が襲ってこない保証はないんだ。どこかほんの僅かでも、長くより安全に隠れられる場所を見つけるのが先だ」


 ふと、悠里が廃屋の隅に積まれた箱を指差した。


「……ねぇ、あれ……何か、箱が。中身、前の家にあった、実験記録みたいなものだったりしませんか? それならもしかして、何か抜け出すヒントが……」


 涼が近づき、埃を払いながら箱を開けた。中にはボロボロになった巻物や帳簿が入っていた。


「……神伏村 由来之書……?」


 涼が表紙を読み上げる。美咲が震える声で言う。


「それ、村の記録……? それとも、ただの民話……?」


 涼は素早くページをめくり、目を走らせた。そこには【供物】【胎主】【御使い】【贄】【破滅】といった不気味な文字が並んでいた。


「……『胎を喰らいし御使い、村を守護す』……? 何だこれ……」


 悠里が顔をしかめる。


「胎……って、まさか……」


 圭介が苛立ったように叫ぶ。


「今そんなのどうでもいいだろ! こんなとこで歴史調べしてる場合かよ!」


 だが涼は帳簿を閉じず、食い入るように読んでいた。


 ――その時だった。


 ギチ……ギチ……ギチ……ギチ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ