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赫き蠢きの廃村①-贄子の夢、胎主の詩-  作者: 三嶋トウカ
第一章:境界線

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第12話:そこで蠢くモノ_4


「無理だ……このままじゃ破られる!」


 修平が恐怖で顔を歪めたが、涼が周囲を見渡し、納屋の奥に古びた農具が積まれているのを見つけた。


「武器になるものを探せ! 俺が支えるから! 早く!」


 圭介が錆びたスコップを掴む。悠里もためらいながら鉄の棒を手に取った。美咲も、壁にかけてあった鎌へ手を伸ばす。


 だがその瞬間――


 ガンッ!! ガンッ!!


 扉がついに破れ、異形が突入してきた。圭介が叫びながらスコップを振るう。しかし異形はそれを避け、代わりに武器を掴み損ねていた修平へと飛びかかった。


「うわあああっ!!」


 修平は地面に押さえつけられ、異形の口が彼の肩に食い込んだ。血が噴き出し、修平が苦痛に絶叫する。


「修平さん!!」


 美咲が叫んだ。涼がすかさず異形の背に飛びつき、圭介からもらったスコップを全力で振り下ろす。ゴギッ――と鈍い音がし、異形の背骨らしきものがわずかに凹んだ。

 だが異形は苦痛を感じないかのように修平の肉を引き裂き続けた。床と異形に挟まれて、修平は呻き声とも、懇願とも言えない声をあげている。涼は再びスコップを振り下ろし、今度は異形の頭を狙った。【削】の時と同じように。


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 異形がようやく修平を離した。だが修平はすでに血だらけで、動かない。


「修平……修平!」


 悠里が泣きながら彼に駆け寄るが、涼が腕を掴む。


「もう……もう駄目だ! 今はここから逃げ出すことを考えろ!」


 異形が再び涼たちに向き直る。その口は修平の血に染まり、ギチギチと不快な音を立てていた。


「……俺が引きつける。お前たちは裏口から逃げろ」


 涼が低い声で言う。


「そんなの無理だ!」


 圭介が叫ぶ。


「お前もうとっくに限界を超えて――」

「行け!」


 涼が怒鳴る。美咲が泣きながら涼を見つめた。だが涼は一瞬だけ振り返り、静かに笑った。


「大丈夫だ。また必ず追いつくから。早くいけよ!」


 涼はスコップを振り切って、異形の胸の辺りに当てた。意外と今までのダメージが蓄積されていたのか、少しよろめいて後ずさる。そのままスコップを横向きに持ち直し、全身の力を込めて壁際へ押し付けた。


 悠里と圭介、美咲は渋々ながらも、それを背に外へ走り出す。涼は異形を見上げて、お腹にスコップを突き刺した。


「グオォォォ――!!」


 異形が叫ぶ。その声はこの村全ての目を覚ましそうな、身体中に響く音だった。


「くっそ……!」


 深く刺さったスコップが抜けない。仕方なく涼は他に武器になりそうなものを探した。足元に、折れたのか農具の柄だけが転がっている。もう一度奥まで力を込めてスコップを突き刺すと、異形はオォォ……と声を上げた。きっと効いている。そう信じて一度スコップから手を離すと、異形はよたよたと後ろへふらつきながら下がった。しかし、彼が折れた柄を拾った瞬間、低い唸り声をあげて突進してきた。


「あぁぁぁぁぁぁぁ――!!」


 涼は横に飛び、柄で異形の脚を狙った。


 ガンッ!


 弱点なのか、脚が反対側へと凹み、異形がよろめく。


「……案外、脆いんだな」


 涼が小さく呟く。

 だが異形はすぐに体勢を立て直し、再び突っ込んできた。涼は辛うじて身をかわすが、長い爪が腕を捕らえ、傷口から血が弾かれる。


「……長くはもたない……ってことか。最悪だな」


 涼は周囲を見渡した。このまま同じように戦っていても、体力に限界を迎えた彼に勝ち目はない。強力な助っ人が今すぐにでも駆け付けるか、それとも一瞬で異形の行動パターンと最弱点を読み取り、驚異の一撃をぶち込むか。はたまた、自分自身が【削】のように、特殊な能力に目覚めてアレを完封するか。……そんな都合の良い夢物語が脳裏を過ぎる。

 しかし、それはもう無理だろうと、このまま死ぬかもしれないと、諦めかけたその時。誰もいないはず納屋の梁に、いつから明かりを灯しているのかもわからない、古いランタンがぶら下がっていることに気が付いた。


 ――これは――使えるじゃないか。


 涼は異形を誘導しながら梁に近づく。異形が飛びかかってきた瞬間、涼は梁を蹴りつけ、ランタンを落とした。


 ガシャン!

 チリチリ――ヒュン――


 炎を揺らしていたオイルが飛び散り、火花と炎の残骸が床に燃え広がる。それはそのまま異形の身体へ飛び移ると、一瞬で黒い皮膚の焼ける臭いが広がった。


 グゥオォォォォ――!! オォォォ――!!


 異形が苦悶の声をあげ、壁に身体を壁にぶつけ始めた。身体を覆う火を消して寝ると痛みから逃れようとしているのか、それとも焼け爛れているその肌ごと削り落とそうとしているのか。そのどちらとも読み取れる行動をとる異形は、涼に目もくれずただひたすらに壁への突撃を繰り返している。床を覆う油と炎、そして、充満する煙と焼け付いて燻ぶる嫌な臭いが、もうこの家屋が長くないことを表していた。

 徐々に異形の身体が前屈みに折れ、勢いを失っていく。耳障りな声を上げるが、その強さも段々と弱まってきた。長くはないかもしれない、が、これは何をするかわからない。……その残骸になりたるモノが完全に倒れる前に、涼は外へ飛び出していた。

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