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赫き蠢きの廃村①-贄子の夢、胎主の詩-  作者: 三嶋トウカ
第一章:境界線

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第10話:そこで蠢くモノ_2


「あぁぁぁぁ――!!」


 辺りに涼の絶叫が響き渡る。


「涼!」

「涼さん!」


 その声は、反対側へ逃げていた四人の耳にも届いた。掠れた不安が余計に不安を煽る。


「早く家の中へ!」


 修平が広場を気にする三人を、無理やり二軒目に探索した家の中に押し込めた。


「はぁ、はぁ……」

「できるだけ、気持ちと呼吸を落ち着けるんだ……。気配を、殺すように」

「こんな、こんなこと、って……うぅ、うぅぅ……」

「泣くな美咲! 泣くのは後にしろ! 今は、どうやって量と合流するかと、これからどうするかを考えないと……」

「なんで修平は、そんな平気な顔してられるのよ!」


 苛立ちと恐怖に任せて悠里が言った。


「平気なわけないだろ!? 俺だって必死なんだよ! でも、でも! 俺たちが無事じゃないと、涼が俺たちを行かせた意味がなくなっちまうんだよ……」


 ざらりとした空気が、淀みとともに四人の喉を通る。言い争いをしている場合じゃない――そんなことはわかっていた。


「……ごめん悠里……でも、俺」

「わかってる。……あたしこそ、嫌なこと言わせてごめん。……部長はあたしなんだから、あたしがしっかりしないとね」


 震える手を抑えながら、悠里は気丈に振る舞った。今この場に『自分は大丈夫だ、全く問題ない』と、胸を張って言える人間は一人もいなかった。それを知っているからこそ、これ以上誰も修平の強引さを責めなかったし、悠里の部長としての責任の所在も問わなかった。


「あ、あの……少し、良いですか?」


 重苦しい空気を破ったのは美咲だった。涙を必死に堪えているのは、みんな知っている。


「これ、一回目にここを出る前に拾ったんです。何か参考にできることが書いてないかと思って」


 それは、美咲が踏みつけそうになった本だった。


「それ、古そうな本ね?」

「中身は気にせずに拾っちゃったんですけど……読んでみませんか?」

「そうね……今は藁にも縋る思いだし、この村にあった物なら何か参考になるかも……」


 悠里は美咲から本を受け取ると、全員が見られるように表紙から順にページをめくっていった。


「な、何だよ、これ」


 書かれた文字を読んで、圭介は目を背けた。


「……最初の文字だけ見ると、生き物の名前に見えるわね。それから……これは写真? 白黒だし、あんまりハッキリしないけど。下にあるのは、説明、かしら?」


 その本は、とある研究をまとめたものだった。中には先ほど対峙した異形と同じような、口に出すのもおぞましい姿の【何か】が写されている。それぞれ丁寧にも名前が付けられ、番号も振られていた。本能的に『気持ち悪い』と感じるその見た目は、何も知らなければ誰もが作り物だと思うだろう。しかし、四人はそれが作り物なのではなく、正真正銘の本物であることを身をもって知っていた。


 ――こんなもの、見たくない。が、悠里はページをめくる手を止めなかった。ここに書いてあるこの村の秘密を、何一つ漏らすことなく記憶するために。


「あっ、これ!」

「……さっきの異形じゃない」


 美咲が指さしたのは、先ほどの異形と同じ写真が載っているページだった。名前の欄におどろおどろしい書体で【ケズリ】と書かれている。


「削……ケズリ?」


 説明を急いで目で追う。


「ええっと……『検体No.K-01。その身体は見事な失敗作。鳴き声は人を不快にさせるため、その点は兵器利用の価値あり。むしろ積極的に増強する方針を取る。皮膚が剥がれ落ち、骨がねじ曲がった結果、常に痛みが全身を覆うようになっている。触るとギギギと身をよじらせ嫌そうに泣く。但し、その時に発せられる光が、過去の光景を見せる幻覚剤のような働きを持つことが判明。こちらも兵器利用の価値あり。ザリザリと不快な音を立てて歩く姿は恐ろしい、が、遅い。そのたびに骨が削れるため、痛みで行動が遅くなっていると見える。能力と鳴き声のみ残したい。人の要素は不要』――どういうこと……?」


 説明を一通り読み切った悠里は、書いてある内容を理解しきれないでいた。


「……そのまま読むと、あの異形は元々人間だったってことか?」

「圭介、変なこと言わないでよ」

「だって、文末に書いてあるだろ? 『人の要素は不要』って。それって、人間だったけど人間じゃなくていいって読めるぞ?」

「それは」

「あの見た目なら納得できるじゃん。人っぽかった。目ん玉はなかったけど、顔も身体も手足もついてる。見えてたのが肉と骨なら、間違いなくここに載ってるのはさっきの異形で、人間が研究の結果ああなったんだよ」

「……うっ……ご、ごめ」


 修平は口を手で押さえて走り出すと、誰もいない部屋へ消えた。そして、少し経ってから戻ってきたものの、その顔色は非常に悪かった。


「悪い、メチャクチャ気持ち悪くなって」

「いや、普通の反応だろ。俺の水やるから、少し飲んで壁にもたれて座ってたほうが良いぞ」

「あぁ……お言葉に甘えるよ」


 圭介から水をもらい、少し離れた壁際に修平は腰を下ろした。


「まさか、お化けどころか元人間の異形が出てくるなんてなぁ……」

「信じられません、こんなの……」

「こんなことなら、恭一を戻すんじゃなかったわ。彼ならきっと、嬉々として現状を打破する策を考えてくれたはずなのに」

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