成果発表と左遷
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「さて、遂にきたか。成果をみせろと、そう言う事でしたよね?」
「そう言う事ですね。成果が見えないようでは、リベリエルに飛ばすと言っておりました。ですので、明日、何かしらの成果をみせて貰いたいとのことです。大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないですね。確実にリベリエルに飛ばされるでしょう。魔法は作ってありますが、希望に適うかどうかは解りませんので。多分ですが、無理なのではないかとは思いますね。そのくらいの覚悟はしています」
「そうですか……。それでは、今日も外出ですか?」
「そうですね。ロジエラ商会に行ってきます」
明日に、成果の発表会があるらしい。随分と急だが、これは皆がやっていることなんだろうか? それとも私だけの成果発表か? そんな事はどうでもいいんだが。成果無しでは流石に恰好がつかないので、畑を耕す魔法をみせるつもりでは居るんだが、それでどんな反応をされるのかだ。まあ、確実に飛ばしてもらえると思うんだがな。この魔法は農村でこそ輝く。ならば、地方にいた方が良いと言う事になるんだよ。これで評価されたら、微妙な感じになるだろうな。なんというか、内政で輝く魔法なんだ。内政を軽視しているローレンディア伯爵家では、使い道がないと思われると考えているんだがな。これで評価された方がおかしいだろうとは思う。
そんな訳で、いつも通りにロジエラ商会にやってきた。情報交換と取引をしに、だな。ここでしか得られない情報もあるからな。村の近況とかな。
「それじゃあ、結構上手くやっているんだな。良かった。今年が不作になるようなら困る所だったんだ。大きく大きく畑を作るだろうからな。前よりも大きく作るだろうし、これで不作になったら、後がないって感じになるんだよ。それは避けなければならなかった」
「というか、かなりの豊作の予定らしいぞ? 既に首も垂れてきて、良い感じに実っているって話だしな。そこから刈り取るのに時間がかかるだろうが、豊作なら良いだろうよ。そこまで作れるのであれば、食料は安定してくる。そうすれば、町も発展しやすい。考えられることは、向こうはそこそこ発展するだろうなって所か。それをリベリエルでやれば、一気に向こうの土地が化ける。金の生る木に育つだろうよ。それを待っているんだがな」
「まあ、もう少しというか、直ぐにそうなりそうですがね。明日に決まりましたので」
「お! そうかそうか。で? 何の成果をみせるんだ?」
「畑を耕す魔法をみせようかなと思っています。これなら確実にリベリエルに飛ばされると思うんだが、どうだろうか? 普通に評価されるとは思わないんだが?」
「あー、評価はしねえだろうなあ。そもそもだ。お前さんはなんで魔法の研究をしているのか知っているか?」
「いや? 魔法文明を作るためだと勝手に思っていたが、違うのか?」
「違うな。魔法を研究させるのは、戦争で勝つためだ。攻撃魔法をしっかりと使えれば、戦争に楽に勝てる。そうだろう? 剣や槍で戦う所を、強力な魔法でドカンとやってやれば、一気に局面が変わる。戦争に勝つために魔法を研究させているんだよ」
「……なるほど。それならば、俺の魔法は評価に値しない訳だ。本来であれば、兵糧を沢山抱え込めるようになるんだから、軍事的な側面も考えれば、有りだとは思うが、そんな事は考えても居ないんだろうしな」
「そうだな。考えても居ないだろう。そもそもだ。兵糧なんて民から搾り取ればいいと考えているだけだぞ? そんな奴に、兵糧の大切さを解いても無駄だ。何も解っていないんだからよ」
軍事関係で魔法が欲しいというのは解らないでもない。強力な魔法でドカンが出来るのであれば、一気に形勢が変わるだろうからな。1日に1発しか撃てなくても、毎日ドカンドカンと攻撃が出来れば、一気に盤面が変わるだろうし。そして、攻撃魔法を重要視しているって事は、やはり教会勢力が戦力を落とすために何かしらの策を打ったんだろうな。教会の教えは、国を超えるらしい。それは聞いている。だとすれば、戦争にならない様に教会勢力が手を打ったと言う事は、想像に難くない。魔法が無くなれば、戦争も出来ないだろうしな。激しい戦争ほど、魔法が必要になって来るとは思う。だから、魔法がショボい今の状況は、教会勢力にとっては望ましい事ではあるだろう。
そして、今日。遂に魔法の成果を見せる時が来た。見せる対象は2人。ローレンディア伯爵と、ヘイリルと言われていた技師だ。まあ、この2人なら、間違いなくリベリエルに飛ばしてくれるだろうとは思う。色々と認識がおかしいだろうしな。馬鹿が2人揃っているんだ。私が農地を耕す魔法を見せたらどうなるのか。恐らくだが、ぶちぎれるだろうな。それで良いんだよ。俺はリベリエルに飛ばして欲しいんだから。
「さあ、お前がこれまでの時間で得たものを、ここで発表してくれ」
「まあ、気楽にやれや。どっちにしろリベリエルに飛ばしてやるからよ」
「そうですか? まあ、気楽にやりますが。始めても大丈夫ですかね?」
「ああ、とっとと見せろ」
「では、……それ!」
半畳程度、耕してみせる。完璧に決まった訳だ。まあ、この程度の魔法なら、簡単に発動できるんだよ。まあ、向こうは固まっているけどな。魔法を発動できたことに驚いているのだろう。見たこともない魔法だろうからな。何をどう評価して良いのかが解らないのだろう。では、こちらから答えをやるとするか。
「これは、農地を耕す魔法です」
「農地を、耕す? 魔法だと?」
「っは、はははははは! これは傑作だ! 農地を耕すだと! ……馬鹿にするんじゃねえ! 俺たちは馬じゃねえんだぞ!」
「全くだ! なんだこの魔法は!」
「だから農地を耕す魔法です」
「そんな事はどうでもいい! ヘイリル! お前は何も教えなかったのか!」
「教えるまでも無いでしょう。魔法と言えば攻撃魔法。それが技師の常識です。それも解っていないこいつが悪い。頭の出来が悪すぎて、俺もどうにかなりそうだぜ? 普通にあり得ねえよ」
「だが、この馬鹿はそれすら知らないと来たぞ! お前はどう責任を取るんだ!」
「俺が責任を取る訳がないだろう? まあ、順当にこいつをリベリエルに飛ばしてお終いで良いじゃねえか」
「そんな事は決定済みだ! まずは技師長としての話をしているのだ!」
「あー、……悪かったよ。まさかここまで馬鹿だとは思っていなかったんだよ。魔法と言えば、攻撃魔法が当たり前。そうじゃないか? それすら解っていないなんて想定外だ」
「むう……。まあ、そうだろうな。こんな魔法を、魔法と呼んで良いのかという疑問も出てくるが、結果は変わらん。お前はリベリエルに行け。ロジエラ商会にもそれを伝えろ。良いな? 期限は5日間だ。それよりも先に出て行け。リベリエルにはこれを持っていけ。これで話が伝わる」
「……解りました」
良し。良い感じに追い出されたぞ。リベリエル行きの書状を持っていたと言う事は、そもそも成果が目に見えていなければ、追い出すつもりで居たと言う事なんだよ。まあ、それは解っていたことではあるがな。計画通りだ。魔法は攻撃にだけ使うものではないと言う事も解らない愚か者の所で、技師なんてやる意味がないからな。
さあ、準備はしてある。既にロジエラ商会には話を通してあるし、荷物を纏めて持っていくだけだ。これで俺の左遷は決まった訳だ。これで漸く、自由に魔法を研究できる。まずは町の発展を目指した魔法を作る方が良いだろう。何から作ろうか。今からでも楽しみだな。




