最近の村の状況
OFUSE始めました。
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「さて、ある程度の辞書は出来てきたが、肝心な場所が読めない。文脈である程度は予想できるが、専門用語の解読は実験も込みでやらなければならない可能性が高いな。……となると、リベリエルでは不可能と言う事になるんだが。かといって諦めるのも惜しい。何とか2つ3つくらいは書物を読み解きたい。これが確定すればというものが、1つの書物に10はあるからな。それらをどうやって確定させていくのかなんだが、どうする? ここらで色々と試してみるか? ……いや、それをやると、成果が出てしまう。それは避けたい」
技師として雇われてから、早くも半年が過ぎている。なのに、書物を完全に読めたものは無い。これでは焦るのも無理はない。汎用的な表意文字は殆ど読めるようになったのだが、専門用語がどうしても難しい。それでも1割程度は読めているんだが、確定させるのが難しいのだ。系統は解る様にはなっているのだが、書物の系統が無秩序なお陰で、特定が難し過ぎるのだ。同じ系統の書物が10も20もあれば、特定は可能なのだが、専門書が1つでは、どうしても無理がある。しかも、羊皮紙で書かれているからな。分厚いだけで、内容は余りない。植物紙を作っているが、それだと体積は100分の1以下になるからな。それだけの内容しか書かれていないのだ。……ものによっては、上中下巻がありそうな書物もあるのだが、1つしか無いものもある。それだけ、王都でも読めていないと言う事になるんだが、そこまで読めないものか? 幾ら漢字というアドバンテージがあったとしてもだ。表意文字を探し当てるくらいは、ある程度の見識があれば、何とかなるとは思うのだが。
「いや、そもそも表意文字と言う事も解っていないのか? いや、そんな事は無いだろう。ある程度の発想力があれば、表意文字であるという事は解るはずだ。少なくとも、何かを意味していることは解るはずだ。……私が解読の最先端を走っていると言う事が無ければ良いのだが。ある程度の情報共有はしたいんだがな。この程度の所で詰まっていては、先が思いやられるというものだ。何とかしなければ、ならないだろう」
「失礼します。フレイルさんはいらっしゃいますか?」
「はい。どうぞ」
「失礼いたします。今月の技師のお給金を持ってきました」
「ヘンデルさん、ありがとうございます。受け取ります」
「どうですか? 研究の方の進み具合は」
「……余りよろしくないですね。思ったよりも専門用語が読めないので。これが読めるようになれば、大きく変わるのですが……。新しい書物はきていないですか?」
「新しい書物が来たと言う事は聞いていないですね。それにしても、流石は技師様ですね。普通の人では絶対に読めないと言われている資料を、ある程度でも読み解けているなんて」
「いや、これでは読み解けているというレベルにも達してないですね。まだまだ自分の力不足です」
力不足なのは本当だ。だが、あくまでも成果は出ていないと言う事にしなければならない。ここから伯爵に伝言が行くんだろうし、その時に全然出来ていないと言う事にしてもらわないと、リベリエルに追い出してくれないからな。最悪はこのまま解雇される事なんだけど、その時はロジエラ商会から、リベリエルに押し込んでもらう。それも無理なら、ロジエラ商会所属の技師になって、そこで成果を出し、王都への推薦状を持って、王都の技師になる。そういう計画ではあるんだが、それが何処まで上手くいくのかだ。大きな成果は要らないが、ある程度の成果は求められるとは思う。
「しかし、新しい書物が無いのは厳しいですね。今のところは手詰まり感があります。ここまでは出来るという感じではあるんですが、それ以上が難しい。実験をしようにも、何から着手すればいいのかが解らないですからね。私も頑張っては居るのですが、成果には遠いでしょうね」
「そうですか。何とか頑張っていただければなとは思います」
「解っています。それと、今回も外出許可は出ますか?」
「何時でも構いませんよ。いつものロジエラ商会ですか?」
「そうです。推薦者にもある程度の事は伝えないといけないですしね」
まあ、そんな義務はないんだが。単純に白金を売りに行く口実が欲しいだけなんだよ。白金も毎回毎回売りに行かないでも良いんだが、貯め込んでおくものよろしくない。というのも、捌ける量には限界があると思うからだな。白金を定期的に卸してしまう方が、ロジエラ商会にも良い事だとは思う。定期的に捌いていれば、一過性のものではないという評価が出来るだろうし、実績になるだろうからな。こういうのは持ちつ持たれつなのだよ。
「それじゃあロジエラ商会に行ってきます。いつも通りに食事も済ませてきますので、よろしくお願いします」
「畏まりました」
そんな訳で、ロジエラ商会へ。ここでは白金のやり取りもそうなんだが、外部の情報収集も兼ねている。今のエツタ村がどうなっているのかの情報は、ここからしか入手できないからな。
「今のエツタ村は、かなりの規模の農村になっているぞ。シベル商会が何度も何度も足を運ばないといけないと言う事を言っていたな。既に寒村という評価は覆っている。普通の農村よりも若干大きい感じだな。最近では、何とか牛を飼えないかと話が出て来ているらしい。牛をこっちに融通できないかと話が来ているからな」
「となると、農耕牛を手に入れて、もっと開拓を進めるって事なんでしょうね。良い事ではあります。その分食料の供給が増えるんですから、領地外への輸出も考えられるな。そうすれば、どんどんと豊かになる。首都も食料で溢れることになれば、もっと良い感じの料理も食べられるかもしれない。……まあ、そこから、畜産をやるところまで規模を大きくできるのかって所ですかね。牧草も多く必要だとは思いますけど」
「まあ、その辺は大丈夫だろう。というか、畜産をやるにしても、まずは数を増やさなきゃならねえ。簡単には出来ないぞ? まあ、10年もすれば、十分な大きさの畜産場が出来るだろうけどな。それだけの稼ぎは、あの村にはある。お前が残してきたものは大きいぞ。村で鉄が作れるようになるというのは、かなりの影響力になる。まあ、それを発揮してくれるのは、もう少し後だがな。リベリエルに飛ばされたら、好きにするといい。寒村も多いからな。積極的に村を大きくしてやれ」
「そうするつもりではいるがな。……思ったよりも飛ばされるのに時間がかかっている。何かしらの思惑があるのか知らないが、飛ばすのであれば、とっとと飛ばしてくれると助かるんだがな」
「今回は結構忍耐強く使っているなとは思っている。まあ、時間の問題ではあるだろうがな。秋の収穫の時期には飛ばされるだろう。そのくらいが丁度いいんじゃないか? 飛ばされたら言えよ? 送り届けるのも儂の仕事だ」
「解りました。その時はよろしくお願いします。それと、リベリエルの支店は大丈夫なんですか?」
「心配ねえ。向こうの規模も大分大きくしてあるからな。好き勝手しても大丈夫なようにはしてある。儂の所で独占するつもりはないが、それでも、リベリエル最大の商会にはしたつもりだ。利益はその分回収させてもらう。お前が心配する事じゃねえな」
まあ、ある程度の事は聞いておかないといけないからな。しかし、エツタ村に牛が導入されるのか。それは良い事だな。魔法で耕すのも限界がある。それを良く解っている。限界以上に耕すには、それ以上の労働をしなければならないからな。




