商人がやってきた
OFUSE始めました。
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夏も始まり、夏野菜の収穫が始まってきている。俺が育てたマトマもカラカコシも順調に収穫できている。……肥料を使った分だけ大きく、また美味しく出来上がっていた。やはり肥料は重要だ。美味しく食べられるのであれば、そうした方が良いからな。何事も食べない事には始まらない。食事は美味しい方が良いのだ。それは何よりも解っている。3度食べなければならないのだから、食事は楽しんだ方が良いのだ。研究の途中なんかでは、レーションが役に立つが、平時は美味しいものを食べた方が良いのである。
そして、念願の商人がやってきた。俺の方も準備はバッチリである。箱に入れた白金の重さが感じられる。それなりに準備はしてきたつもりなのだよ。まあ、これは単純に売る訳ではないんだが。
「やあカントさん! 久しぶりだな!」
「お久しぶりですギリーさん。そちらは息子さんですか?」
「ああ、四男のフレイルだ」
「フレイルです。よろしくお願いします」
「おやおや、よろしくね。……所で、ギリーさんのその箱は?」
「おう! 今回はこれを売ろうと思ってな! 鉄だ! 幾らで買ってくれるんだ?」
「……やはりですか。それが鉄なんですね。魔法の天才が現れたって伺ってますけど、本当なんです?」
「魔法の天才? あいつらそんな事を言ってたのか。まあいい、このフレイルがそうだ。鉄を生み出す魔法を作ったのは、こいつだ」
「こんな小さい子供が!? 何かの間違いじゃないんですか?」
「いや、こいつであってるな。まあ、魔法の天才ってのもあながち間違いじゃねえ。まあ、色々と規格外なんだよ。俺はもう慣れた。慣れなきゃやってられなかったからな。カントさんも見て貰って解るだろう? この農村のおかしさを」
「見て解るかと言われても、流石にどう変わったのかまでは解りませんが……」
「なんだ。カントさんは覚えてねえのか? まあ、他の所にも商売に行っているんだからしょうがないか。麦畑を見て貰えば解るだろ?」
「麦畑? ええまあ、見事な麦畑……え? あれ? 牛か馬でも買いましたか?」
「だろ? そう思うよな。買ってないんだよ。全部魔法でやっちまったんだ」
「え? 麦畑を、魔法で作ったんですか?」
「おう! それもこいつが考えたんだ。……なんか地面に魔法陣を書きながら、ぶつぶつと言ってるなとは思ってたんだが、まさか畑を魔法で作るとは思わなかったぜ!」
「畑を、魔法で? 一体なぜ?」
「さあ? こいつに聞いてくれ」
「何故畑を魔法で?」
「その方が楽で良いじゃないですか」
「……それだけの理由で魔法を作ったんですか?」
「楽をしたいってのは、十分な理由になりますけど?」
「……それで魔法を作れると思います?」
「魔法陣は単純な作りですから、簡単ですよ?」
「な? こいつの考え方は、ちょっとどころじゃなく特殊なんだよ。まあ、慣れないと辛いとは思うが、慣れてくれ。こいつはそんな奴だ」
「ちょっとじゃないですよ! ちょっと、じゃないですって! 魔法を作るっていうのは、そんなちょっとの事じゃないんですって! これが本当なら、本当に天才じゃないですか!? 良いですか!? 魔法って言うのは、領主様たちお貴族様が日々研究して生み出しているものなんですよ!? それがこんな農村で、こんな子供が作り出したなんて言ったら、お貴族様がひっくり返りますよ!? これは普通なんてものじゃないんですよ!?」
「なんだよカントさん。……そんなにおかしな事なのか?」
「おかしいも何もあったものじゃないですよ……。これが貴族出身なら、晴れて王都行きですよ? 魔導士団の研究室に推薦で押し込まれるのが普通です。その、こういってはなんですが、なんでこんな村に、こんな逸材が生まれたんですか?」
「良く解らないんだが、王都に行くのは、そんなに偉い事なのか?」
「ええ、国の中でも飛び切りの頭脳を持つ者たちが集まるのが、魔導士団の研究室です。そこに推薦で入れるなんて言った日には、研究室から血の雨が降るんじゃないですかね? 普通は魔法の知識に明るく、勤勉な研究者が集まるんですよ。それで一生に1つでも魔法を組み立てられたら、その名前は永遠に残るとも言われているんですよ? そんな偉業を成し遂げたんですよ、この子は」
「まあ、魔法が便利に使えて良いじゃねえか。俺たちはそれで鉄を作ることが出来る。それ以上でもそれ以下でもないわな。そんな訳で、買い取りを頼む。それと、鋏を幾つかと、酒を買いたいんだ」
「便利に使えるからって、本当に便利に使う人なんて居ないと思っていましたよ。ここの村の人たちは、今までの生活のお陰で、この変化が凄いものだって認識が無いんでしょうね……」
そんな事を言いながら、鋏と酒を用意するカントさん。それだけ買っても、鉄の方が価値があるらしく、お金を支払っている。……思ったよりも鉄に価値があるのか。それとも、汎用性の高い鉄を高値で引き取っているだけなのか。どちらにしても解らんね。まあ、儲かるならそれでいいとは思うけど。こんな寒村でも、収入源は大事だ。……というか、他の農村って魔法を便利に使ってないの? じゃあ、どうやって小遣い稼ぎをしているんだろうか。何かあるのかね?
「じゃあなカントさん。まだ鉄を売りに来る奴は居ると思うからな。それと、また鉄を貯めておくから! 今度もまた酒を持ってきてくれ!」
「解りました。商品も準備しておきましょう」
「じゃあ、私の番ですね。商売の話はとりあえず置いておくとして、領主様たちお貴族様が魔法の研究をしているってのは、本当の事なんですか?」
「ん? そうだよ? 毎日毎日魔法の研究をしている部署があるんだ。知らないかい?」
「知りませんね。そもそもここの村の名前も知りませんし、ここが誰の領地なのかも知りませんから」
「……ああ、まあ、子供だし、寒村だし、あり得るのかね? ここはローレンディア伯爵家の領地でね、エツタ村って言うんだよ。まあ、興味が無ければ、知ることも無いのか」
「そうですよね? 普通は知らないと思うんですよ。興味が無い訳ですし。私は興味があったんですよ。魔法よりは多少下がるとは思いますけど、それでも外の世界に興味があったんですよね。それでですね。今の魔法陣は不完全なんですよ。魔力に無駄が多すぎるんですよね。それを勉強したいなって思っている訳です。こう見えても農家の四男ですからね。村から出て、町にいかないといけないのは解っているんですよ。でも、町にも仕事なんてそうそう無いじゃないですか。だから、上流階級の人が勉強している所に行きたくてですね。そういう所って無いですか?」
「……上流階級の勉強をして、どうしたいんだい?」
「勿論、魔法の為です。今の魔法は不完全なんですよ。だから、完成させたいんです。それには独学では限界があることが解りましたから、何とかそういう場所にねじ込んでもらう事は出来ませんか?」
「そう。魔法が不完全、ね。でもごめん。僕じゃあ無理かな。多分だけど、それは伯爵家の研究室に入りたいって事だとは思うんだけど、僕くらいの商人じゃあ、伯爵家の門を叩くことは出来ないかな。もっと大きな商人なら出来るのかもしれないけど、僕の規模じゃあとてもとても。だから、諦めてくれないかな?」
まあ、そうだろうな。上流階級の勉強場所は無いのか、あるが知らないって所か。小規模の商人なら仕方がないとは思う。ましてや伯爵家に伝手があるかと言われても、無いだろうな。まあ、無ければ無いで、作れば良いんだけどな。まずはそこから認識を改めて貰わないといけないかな。




