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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先輩

作者: 稲神蘭

未波(みなみ)は、大学一年生になっても、高校時代の先輩・紗奈(さな)との付き合いを大切にしていた。紗奈とは同じ高校の部活で出会い、卒業後もカフェ巡りや日常のやりとりを通じてその関係は続いていた。未波にとって紗奈は、尊敬と親しみを抱く大切な存在だった。

【忘れ物】


いつも通りのある日、紗奈先輩が私の部屋を訪れていたのは、いつものようにカフェ巡りの帰りだった。二人で部屋で音楽を聴きながら、好きなアーティストの話をしたり、大学生活について話したりして時間を過ごした。


「じゃあ、今日はここまでね。また時間作ってカフェ行こう」


紗奈先輩はそう言って笑い、私の家を後にした。私は玄関で手を振りながら、「またね!」と声をかけた。だが、数時間後、紗奈のスマホの着信音鳴り響いた。


「ごめん、未波の家にスマホ忘れたみたい」


親のスマホから電話をかけているらしい。

確かに紗奈先輩のスマホは私の机の上に置きっぱなしだった。「大丈夫、明日大学で渡すね」と私は返事をし、電話を切った。

しかしその後に起こる出来事が、未波の心を大きく揺さぶることになるとは、誰も予想していなかった。



【スマホの中身】


私は紗奈先輩のスマホを手に取り、ぼんやり眺めていた。普段はこんなことしないのに、何故かその時だけは興味に勝てなかった。画面をスワイプして開いたのは「メモ帳」アプリだった。


そこに書かれていた内容を見た瞬間、私は息を呑んだ。

「どうしてこんなに生きづらいんだろう」

「誰にも言えない。でももう限界」

「消えた方が楽なのかもしれない」


まるで心の叫びそのものだった。紗奈先輩の明るい笑顔や、気遣いに満ちた態度が嘘のように思えた。私は震える手でスマホを閉じ、深く息を吸い込んだ。

「何も見なかったことにしよう」

そう自分に言い聞かせた。



【翌日】


翌日、私は覚悟を決めて紗奈先輩の所属するサークルの部室へ向かった。いつも通り、紗奈先輩は明るく振る舞っていた。


「ありがとう!未波!本当に助かったよ」

私は笑顔でスマホを差し出したが、内心は荒れ狂っていた。紗奈先輩の笑顔が痛々しく感じるほどだった。


「ねえ、未波」

「はい?」

「今日、このあと暇?」

紗奈先輩の声は少しだけ掠れていた。私は一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。

「はい、暇ですよ」



【本当の気持ち】


二人は大学近くの小さなカフェに入った。コーヒーの香りが漂う空間で、私は思い切って口を開いた。


「紗奈先輩、何か悩んでることがあるなら、話してほしいです」

紗奈先輩は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに視線を逸らした。


「未波、何か知ってるの?」

「…ううん。ただ、最近元気がない気がして」


紗奈先輩は少し黙り込んだあと、小さな声で呟いた。

「実はね…」


その日、紗奈先輩は初めて自分の悩みを私に打ち明けた。私はただ黙って聞き続け、紗奈先輩が安心して話せるように心を砕いた。



【終わりではなく、始まり】


その日を境に、私と紗奈先輩の関係は少しだけ変わった。紗奈先輩の心の重荷をすべて解決することはできなくても、私は「一人じゃない」と伝え続けることを決意した。


明るい笑顔の裏にある苦しみに気づけたのは偶然だった。しかし、その偶然が紗奈先輩の未来を少しでも変えるきっかけになればいい。私はそう願いながら、紗奈先輩と一緒に歩み続けることを心に決めた。



【紗奈先輩を救いたくて】


「紗奈先輩、今度の週末、一緒にカフェ行きませんか?」

私が自分から紗奈先輩をカフェに誘うのは、珍しいことだった。いつもは紗奈先輩が「新しいカフェ見つけたんだけど行こうよ」と声をかけてくれていたからだ。


紗奈先輩は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で答えた。

「いいね、行こう!どこのカフェにする?」


私は事前に調べておいたお気に入りのカフェを提案した。紗奈先輩が好きそうな落ち着いた雰囲気の店だった。

週末、二人で訪れたカフェは、優しい音楽と温かな照明が印象的な場所だった。紗奈先輩はラテアートに目を輝かせながら、「未波、こういう場所知ってるなんて意外だね」と微笑んだ。


私はその笑顔を見て少し安心したが、心のどこかで「これでいいのかな」と自問していた。紗奈先輩の心の奥にあるものを知ってしまった以上、表面的な楽しさだけでは救えないのではないかと思うこともあった。



ある日、私は紗奈先輩の部屋を訪れた。

「先輩、今日はゲームしませんか?」

紗奈先輩は驚いた表情を見せたが、「未波がゲームしたいなんて珍しいね」と笑って言った。


私は紗奈先輩が好きだと言っていた対戦型のゲームを買っていた

「これ、紗奈先輩が面白いって言ってたやつですよね。一緒にやってみたいなって思って」


二人はゲーム機をセットして対戦を始めた。紗奈先輩は「負けないよ!」と楽しそうに声を上げ、私も負けじと夢中で操作した。


「紗奈先輩、強すぎですよ!」

「未波、こういうの練習しないと私には勝てないよ?」


その日は遅くまでゲームをして、久しぶりに紗奈先輩の心からの笑顔を見ることができた気がした。



「次はショッピングに行きませんか?」

私がそう言うと、紗奈先輩は少し驚いたように首をかしげた。

「未波って、あんまり買い物好きじゃないイメージだけど…どうしたの?」

「いや、たまには新しい服とか見たいなって思って」


週末、二人で街に出かけ、ウィンドウショッピングを楽しんだ。紗奈先輩は私に似合いそうな服を見つけるたび、「これ絶対似合うよ!」と勧めてくれた。


その後、少し遠出して海沿いの街へ行く計画も立てた。

「ここ、紗奈先輩が好きそうなカフェがいっぱいあるんですよ!」

電車に揺られながら話す私に、紗奈先輩は微笑んで「楽しみだな」と呟いた。


海を見ながら歩いたり、観光地の小さな雑貨屋を巡ったりするうちに、紗奈先輩の顔には少しずつ生気が戻っているように見えた。



「たまにはお泊まり会とかどうですか?」

私がそう提案したのは、もっと紗奈先輩のそばにいたいと思ったからだった。


紗奈先輩は「いいね、それ!」と嬉しそうに笑い、その週末に私の家でお泊まり会が開かれた。二人で夜遅くまで映画を観たり、スナックを食べながら話したりした。


「未波、大学生活どう?」

紗奈先輩の問いに私は「楽しいですよ」と笑顔で答えたが、心の中では「先輩はどうなんだろう?」という疑問が渦巻いていた。


深夜になり、布団に入って眠る前、紗奈先輩はふと呟いた。

「未波、私とこうやって過ごしてくれて、ありがとうね」

「え? 何ですか急に…」

「ううん、なんでもない。おやすみ」

その言葉に私は胸がざわつくのを感じたが、問い詰めることはできなかった。



紗奈先輩を救うために、私はできる限りのことをした。

けれど、心のどこかで感じていた。――その笑顔の裏には、決して癒えない痛みがあることを。


それでも私は、少しでも紗奈先輩に「楽しい」と思ってもらえるように、できる限りの時間を共に過ごそうと努力し続けた。



【絶望の知らせ】


私が紗奈先輩の死を知ったのは、大学での普通の日常の中だった。

いつものように紗奈先輩に会う為紗奈先輩が所属するサークルに行った。私はサークルの場所に着いたとき、紗奈先輩がサークルにいないことに気づき、周囲に尋ねた。みんなが暗い表情を浮かべ、誰も目を合わせようとしなかった。


「…紗奈先輩、どうしたんですか?体調悪くて休んでるんですか?」

私の声は震えていただろう。そのとき、一人の女性が近づき、小声で告げた。


「昨日、紗奈さん…亡くなったの。飛び降り自殺だったって…」


その言葉が私の耳に届いた瞬間、世界が音を失った。

周りのざわめきも、誰かの呼び声も、何もかもが遠く感じられた。

紗奈先輩が――あの笑顔が――もうこの世にいないなんて。


「…嘘ですよね?」

私はか細い声でそう呟いたが、誰も肯定してくれなかった。



【喪失の中で】


帰宅した私は、ベッドに倒れ込むように座り込んだ。

心が何かで押しつぶされるような感覚だった。涙が止まらない。

「私、頑張ったよね…?」

何度も自分に問いかけた。紗奈先輩を救いたくて、できる限りのことをしたつもりだった。


カフェ巡りも、ゲームも、ショッピングも、遠出も――。

けれど、紗奈先輩は限界を超えてしまっていた。それに気づきながら、どうしてもっと早く手を打てなかったのか。


私は紗奈先輩からの最後のメッセージを必死に探したが、そこにあるのはいつもと変わらない短い「ありがとう」の言葉だけだった。それが最後の「ありがとう」だったのだと気づいた瞬間、私は胸が張り裂けるような痛みを感じた。



【囚われた心】


それからの日々、私の生活は大きく変わった。

授業に出ても内容が頭に入らず、カフェを見かけるたびに紗奈先輩のことを思い出して涙がこみ上げた。

「もっと私にできることがあったんじゃないか…」

その考えが頭を離れなかった。


友人たちも心配して声をかけてくれたが、私は心を完全に閉ざしてしまった。

紗奈先輩を救えなかった罪悪感と、紗奈先輩がいなくなった喪失感が私を縛り続けた。


「もう一度、会いたい」

「謝りたい」

「助けられなくてごめんなさいって…」


その思いだけが私の中で強くなる一方だった。



【時の流れ】


それから数年が経っても、私の心は紗奈先輩の死に囚われ続けた。

どんなに楽しいことがあっても、心のどこかに暗い影が残る。

大学を卒業し、社会に出てもそれは変わらなかった。


ある日、私はふと紗奈先輩との思い出の写真を開いた。

そこには、笑顔でカフェでコーヒーを飲む紗奈先輩が映っていた。

私はその写真を見つめながら、小さな声で呟いた。


「紗奈先輩、私はこれからどうやって生きていけばいいの?」


その答えを知る人はもういない。

けれど、私は歩き続けなければならない。紗奈先輩の分まで、紗奈先輩の願いを背負って生きていく。

そうしないと、紗奈先輩との思い出がすべて悲しみの中に埋もれてしまう気がしたからだ。


【終わらない物語】


私の心はきっと、これからも紗奈先輩の存在を探し続けるだろう。

それでも、時が癒してくれる日が来るのを信じて、私は前に進むことを決意した。


「紗奈先輩、ありがとう。そして、ごめんなさい…」


その言葉は、紗奈先輩には届かない。

けれど、私はそれを何度も繰り返しながら、彼女のいない世界を生き抜いていく。

読んでいただきありがとうございます。

初めてバッドエンドの物を書いたのですがどうでしょうか、なんか変なところとかないですよね…?


04/30 細かいところの修正をいくつかしました

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